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「直哉さん。それは、このまま話し合いをしても意味がない、と。そういうことですか? では、このまま、空気の重い生活を今後ずっと続けていくのですか? それとも……」  ここで、今度は真希さんが、ボクと直哉さんの会話に割って入った。 「この人は、別に今の生活が続こうが壊れようがどうでも良いんです。そういう人なんです。話を聞いてくれたのも、家族を想ってくれてたのも、最初だけ。きっと今はなんとも思ってない。足枷だと思っているに違いありません」 「そ……そんなこと!!!」 「はい。そんなことありませんよね」 「「え?」」  直哉さんの否定ととれる言葉に被せるようにして同意したボクに、ふたりの疑問符が重なった。その反応にボクはふふふと優しく笑い、言葉を続けた。 「どうやらお二人は、真逆の性格のようです」 「真逆……ですか」 「はい。直哉さん、あなたは奥様から疲れたという言葉を聞いたことがありますか?」  直哉さんは、少しの時間考え込む。 「そう言われてみれば……ないかもしれません。今日、初めて聞きました」  ボクはその答えに、そうですよね、と一言おいてから、見付けた答えを直哉さんに渡す。 「どうやら真希さんは、思っていることを口にするのが苦手なようです。更に、気遣いに長けているので、余計にお子さんや直哉さんの機微に気付き、自分の疲れや想いを封印して頑張ってらっしゃったんだと思います」  真希さんが少しうつむき、下唇を噛むような仕草をみせた。  色々な家庭を見てきた僕からしたら、真希さんが頑張っているのは一目瞭然だ。綺麗に片付けられた部屋の隅に隠された、努力。きちんとアイロンのかけられた直哉さんのワイシャツ。
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