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「言えなくて、ひとりで抱え込むことしかできなかったんですよね? 真希さん。不機嫌になるのは、気づいてほしいという、直哉さんへのヘルプサインだったのでは?」  そこまで言うと、真希さんはついに涙をほろほろと流し始めた。 「そんなの、言ってくれれば……」 「そう。わかりませんよね? でもこれは、真希さんの短所であり長所でもあります」  直哉さんは、気まずそうに下を向く。 「逆に、思っていることをストレートに、かつ端的に伝えることができるのが直哉さんですね。端的な分、少し冷たく感じてしまうというデメリットがございますが、直哉さんなりに効率よく生活したいという意識の現れでしょう。その分、大切な言葉まで省いてしまっているようですが……つまりお二人は、真逆なのです」  部屋の隅に積まれた、お子さんの学校用具がカタリと音をたて、少しだけバランスを崩した。 「真逆……じゃあ、やっぱり堂々巡りにしかならないじゃないですか。……私たちやっぱり、無理なんでしょうか」 「そんなことはありません。言葉にしなくても察してほしい一方と、言葉にしてくれないと分からない一方が共に生活をすることは、よくあることですから」  これまでの依頼で、そのようなタイプの方たちはたくさんいらっしゃいましたよと付け加える。 「だったら、どう解決すれば……」  真希さんは目元を拭いながら、僕に答えを求めた。 「解決策を見付けるのは、ボクじゃありません。あなたたち、おふたりです。ですが、いったん窓を開けましょう。空気の入れ換えです。新しい空気、案外馬鹿にできないものですよ」  そう言ってボクは立ち上がり、失礼しますと一声かけ、部屋の窓を開けた。  吹き込んできた風に、隣の部屋にかけられたまだシワの残るワイシャツがふわりと揺れる。
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