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「えぇ! オーベルジュ「ファル」って凄く人気があるのよね」
たたもうとしていたシーツを思わず握りしめてしまう。
「倉田さんよく知ってますね。知人のオーナーは取材嫌いで一度もメディアに取り上げられた事がないはずですけれども」
私の食いつきに岡本は目を丸めた。
「友達がそういうのに興味があってね。二年ほど前に一緒に行こうって事になったのよ。だけど予約は三年先だって聞いて。予定が分からないから仕方なく諦めたのよ」
「三年先って凄いな。下手すりゃカップルは別れる事もあるだろう?」
私の言葉に天野も目を丸めていた。
「オーナーが好き勝手をしているからですよ。知人やらを集めてしょっちゅうパーティーをしてるんです。そのせいで貸し切りになるから、予約が取れない事態になっているだけだと思いますよ」
岡本は天野が並べたコーヒーに手を伸ばしながら笑った。
「なる程ね。金持ちって金の使い方が謎だよな。それでハロウィンパーティーがどうしたんだよ」
天野がナッツの入った小皿を天野に差し出しながら呟いた。
百八十センチの長身、スタイル抜群の男二人が並んでコーヒーを飲むリビング。二人共ジーパンと薄手のニットを着ているだけなのにとても絵になる。
長くて繊細な指で岡本がナッツを摘まむがツルリと滑ってテーブルの上に転がしてしまう。天野は頬杖をついて転がるナッツを摘まむと、岡本に手渡していた。
「子供じゃないんだ。転がすなよ」
「少し手が滑っただけですよ」
可愛い所作と会話に、私はシーツをたたむのも忘れて二人を見つめていた。
「僕、毎年ハロウィンパーティーに誘われていたんですけれども夫婦もしくは恋人限定なんですよね。だから参加出来なくて」
「岡本は恋人作った事なかったもんな。すぐに女と寝るヤリチンのくせに、しかも多国籍」
「多国籍とか余計ですよ。天野さんだって同じなくせに」
「ヤリチンは認めるのか。俺はただれてばかりじゃないぜ。恋人がいた期間もあるんだよ」
「恋人? 数か月ならまだしも数週間だけの付き合いですよね。なら恋人とは呼べませんよね」
「数週間なわけない。あれ? そうかも」
「僕と変わりませんよね」
「くっ。岡本に指摘されるなんて屈辱的」
「今年は違うでしょ? 僕にはお二人がいますから。なので三人で行きませんか? 月末の土日に開催するそうなんです」
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