18人が本棚に入れています
本棚に追加
僕が三十のとき 母が亡くなりました
母は 五十年という君のレンタル代を
きっちり支払ってから亡くなりなした
僕の世話と仕事に追われ 何を楽しむ暇もない人生でした
はたして母は幸せだったのでしょうか
永遠にわからないのです
もし僕がふつうに生まれていたら
もし僕が生まれていなかったら
ずっと幸福だったかもしれないのに
僕は君に聞いたことがありましたね
「僕の母は幸せだったのでしょうか」
君はいつもとんちんかんな答えを返します
「ボクハ ズット シアワセデス」
明日 僕は君とさよならをしなければなりません
この世にただひとりだけ残った 化石のような君
契約の更新はできません
君のメンテナンス会社はもうどこにもありません
君は明日 永遠に動かなくなります
君と出会ってから五十年が経ちました
僕は歳を取ったでしょう
十歳の君の友達が こんな老人で申し訳ない
白髪が生えるまで僕が生きられるとは
誰ひとり思わなかったのです
君はいまも出会ったあの日のまま
君のえくぼも ずっとそのままです
最初のコメントを投稿しよう!