いいえ、このままで

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僕が三十のとき 母が亡くなりました 母は 五十年という君のレンタル代を きっちり支払ってから亡くなりなした 僕の世話と仕事に追われ 何を楽しむ暇もない人生でした はたして母は幸せだったのでしょうか 永遠にわからないのです もし僕がふつうに生まれていたら もし僕が生まれていなかったら ずっと幸福だったかもしれないのに 僕は君に聞いたことがありましたね 「僕の母は幸せだったのでしょうか」 君はいつもとんちんかんな答えを返します 「ボクハ ズット シアワセデス」 明日 僕は君とさよならをしなければなりません この世にただひとりだけ残った 化石のような君 契約の更新はできません 君のメンテナンス会社はもうどこにもありません 君は明日 永遠に動かなくなります 君と出会ってから五十年が経ちました 僕は歳を取ったでしょう 十歳の君の友達が こんな老人で申し訳ない 白髪が生えるまで僕が生きられるとは 誰ひとり思わなかったのです 君はいまも出会ったあの日のまま 君のえくぼも ずっとそのままです
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