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自由な空
どこまでも続く青く澄んだ空。
雨が降っていても雲が出ていても、上へ抜けると太陽がありずっと続く空がある。
空は自由だ。人間はいない。
人からは見えない空高くを飛ぶ。
ずっと昔から変わらない空。私を受け入れてくれる。
私は自由を愛していた。
鳥は群れで空の大移動の旅へ出る。
私は自由気ままに空を飛び回る。
ずっと昔から変わらない光景だった。
人間が住む町もだんだんと広がっていった。
今日はいつもより低空飛行で大地を眺める。
人間たちの住む町を眺めた。
小さな人間たちがたくさん動いている。
しばらく飛び続けると人間たちの姿は見えなくなり森が広がる。豊かな森だ。
だが、そんな森の中に一人の人間がいた。どうやらこの森に一人で住んでいるようだ。
人間は孤独を嫌う。なら何故あいつは一人でこの森にいるのか、疑問に思ったが私には何の関係も無いこと。
通りすぎいつもの空へ羽ばたいた。
どうせすぐに忘れる。そう思っていたものの私は気がつけば森に住む人間の様子を見に行っていた。
今日は前よりももっと近くまで飛んだ。
人間は相変わらず一人だった。長い髪を一つにまとめ、裾を泥だらけにし淡いピンクの頬を染めて人間は畑を耕していた。まだ幼い小娘のようだった。
私はそんな小娘に気をとられ前から近づく鉄の鳥に気づかなかった。
気付いた時には既に遅し、鉄の鳥は私に突っ込んで私もろとも地上へ落下した。
奴は黒い煙をあげており、びくともしなかったが、幸い私は片方の翼にかすり傷一つですんだ。
私は近くの森で薬草でも探そうとしていると、後ろから声をかけられた。
「あら、貴方怪我をしてるじゃない」
あの娘だった。
「こちらにいらっしゃい、私の家がこの近くにあるの。手当てをしてあげるわ」
娘は私に触れようと手を伸ばした。
「娘、私が怖くないのか?」
今まで出会ってきた人間たちは私の姿を見ると皆逃げ出したが、この娘は違った。
彼女に傷口を手当てしてもらい、その日はすぐに別れた。
彼女はハナと名乗った。
それからは毎日ハナの元へと行った。
二人で畑を耕したり花畑や川に行ったり空を案内したりと、時は流れてゆく。
こんな平和な時間が続けばいいのに。そう願ったが叶わなかった。
近くの町は炎に包まれ、ついにはハナの住む森にも炎が迫ってきた。
共に逃げようとハナに伝えた。
だがハナの答えは私の望む答えでは無かった。
"貴方は孤独を愛しているわ、私には自由はないの"
と、
私はハナを死なせることはしたくなかった。
私は孤独を愛してなんかいない。
私には翼があり自由があるが、ハナには孤独しかなかった。
翌日、ハナは死んでいた。
焼け野原、冷たい雨が降り注ぎ、体温を奪ってゆく。
私は絶望に打ちひしがれた。
雲を抜ければ雨に当たることはないことは知っていた。だが今はハナがいたところにいたかった。ハナが感じたことを感じたかった。
自由に飛んでいた空も今は何も感じない、乾いた空だ。
時間だけが残酷に過ぎ行き、ハナが亡くなった場所は豊かな森になっていった。
気付けば、ハナが死んだ森で過ごすことが多くなっていった。
「ねぇ、」
「貴方、何をそんなに悲しんでいるの、」
気付けば燃え尽きた森は豊かに再生しており、ハナの家だったところには綺麗な木蓮の花が咲いていた。
「貴方、随分長い間ここにいたのね」
木蓮の枝の小鳥が私に声をかけていた。
今は誰かと、ハナ以外と話す気分ではない。
私はこんな孤独を愛してなんかいない。
だが来る日も来る日も小鳥は木蓮の枝から私に声をかけ続けた。
私はどことなく小鳥とハナを重ねて見ていた。
「貴方、そんな素敵な翼があるのに何故自由な空へ羽ばたかないの?」
「君にも翼があるだろう…」
「この翼は飛べないわ。私には自由はないもの」
可笑しなことを言う小鳥だ。そう思ったとき、小鳥は、
「私には孤独しかないもの」
そう言っていた。
どことなく引っ掛かるセリフだ。
季節が巡り小鳥はいなくなった。
私はまた長い時間、一人でここにいる。
すると後ろから、あの懐かしい声が聞こえた。
「貴方、まだここにいたの?」
ハナだった。
「ずっと、待っていてくれたのね」
ハナはそう言うと私を抱きしめてくれた。
ハナの背中には小さな翼が生えていた。
それから私たちは二人で自由な空へとはばたいた。
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