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「真面目すぎ」  これは柏原についていって、柏原が江戸にある上屋敷の表門を入った直後、初めて言われた言葉。 「これから何て呼ぼうかな? 真面目ちゃん? いや、これじゃご両親とお名前に失礼」 「杉立でいいです」 「だから真面目すぎ」  どんどん奥に歩いていく柏原。杉立は頭を下げて追いかけていく。 「杉立ちゃん? ななちゃん? なっちゃん? あっ」  突然柏原が立ち止まった。杉立も立ち止まって、頭を上げると、柏原の笑顔がキラキラしている星のように眩しくなっている。 「なぁちゃん」  急に両肩を掴まれた。その三日月のような目に見つめられて、なぜか温かいと感じる。 「これからよろしくね」 「はっ、はい!」  両手を下げ、まっすぐ立っている杉立。  柏原は口を手で覆いながら、大口を開けて笑いだした。  よい殿様かもしれない、と杉立はひそかに感じていた。
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