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 夕食はいつも御広間で柏原と一緒にとるが、今日はひとりごはんになったようだ。 「柏原殿はまたへこんでいますね」  ごはんを作ってくれた四十過ぎの女中・おめぐが話しかけた。 「そうみたいです」 「さっき聞いた話なんだけど、真央殿、あまり柏原殿の教え方が気に入らなくて」  杉立は眉を上げて聞いている。 「他人を笑わせることがうまくできない限り、学問や武芸の指導は始まらないっていうのは、あまりにもふざけすぎるって」 「そう……ですか」  杉立は頭を下げて、すっかり沈み込んだ。 「でもりんちゃんもこうして鍛え上げてきたから、きっと意味あるでしょ」 「りん殿……」  確か、同じく柏原の弟子だけれども、ここには住んでいない。 「柏原殿は相当りんちゃんに頼ってますよ。真央殿の護衛やお屋敷の警備も任せてますし」 「すごい……。羨ましいです」  それに対して、自分は今、吉原の太鼓持ちのようにただ毎日殿様の機嫌をとろうとしている。みっともない。 「なな殿もきっといつかりんちゃんのように偉くなりますよ」  このままでは、なれるわけがない。  杉立は箸を箸置きに置いて、どこか遠いところを眺め、黙り込んだ。
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