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「学問と武芸をご指導ください」
翌日の早朝、杉立は屋敷の縁側で柏原のほうを向いてひざまずいた。
「何焦ってんの?」
柏原はゆっくり庭を歩いていて、桜を見上げている。そっと落ちてくる花びらを手のひらで受け止めようとしていた。
「もっと強くなりたいですから」
「お兄さんたちのように?」
杉立は目を細めて、その目がゆっくりと燃えている。
「さらに強くなって、国を守りたいです」
柏原はふっと仰向いてから、軽く頷いた。
「真央から聞いたよ。お兄さん二人とも真央の小姓だったね。だから真央に仕えたかった?」
「それは……」
床を向いて、何も言えなくなった杉立。
「そんなのわかってるよ。私、誰だと思った? 軍神よ軍神」
「申し訳ございません」
「また」
柏原は振り向いて、杉立のほうに近づけていく。
「今度またそれを言ったらお仕置きするぞ」
「すみません」
「謝るのも!」
杉立は黙って身を伏せた。初めてだった。柏原に大声で怒られた。背中が思わず丸めて震えた。
「君は真央の弟子じゃない。私の指示に従え!」
「はい」
ふいと、遠くから何か食べ物の焦げたにおいが漂ってきた。
「あっ!」
急に目を見開いてそのにおいがする方向へ走って行った柏原を見て、杉立はひざまずいたまままばたきをしていたが、悲鳴が聞こえたとたん、慌てて立ち上がって駆け出した。
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