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第4話
「おい、五郎。ボールの空気がこれではどう見ても多すぎるだろう。」
放課後の部活動の時間が来た。
俺は50人近くいる同じ1年生の部員たちと、練習前の準備を行っていた。
「前はそのくらいでいいと言っていたではないか」
「前って言っても4月の初めの頃の話だろ?今はもう5月末だぞ。気温も上がってきている。ボールは気温が上がるとすぐに膨張するんた。そのくらい考えれば分かるだろう」
溜息をつきながら俺が空気を入れたボールの一つ一つを確認し、上から目線で偉そうな口を叩くこの男こそが……俺の昔からの親友である。
「全く、優は細かい男だ」
「細かくない。テニスプレーヤーとしては当然の知識だ。経験がないを言い訳にいつまでも不勉強なままでいいと思うなよ」
「生憎俺はお前たちのようなテニスバカではない。しかし不勉強と言われるほど怠けているわけでもないぞ。」
「よく言うよ。俺が貸した本どこにやった?」
「毎日持ち歩いておる。教科書と同じ扱いだぞ」
「持ち歩いてるだけじゃ意味ないだろうが…」
俺の言い訳の隙を見つけてはすかさず突っ込んでくる。
鋭く厳しいこの冷泉優という男は、俺が転校した先で虐められていた時に何も気にせず接してくれていた唯一のクラスメイトだった。
初めはなんて優しい男がいるのだと感心したものだが、よくよく観察してみればそんな感心は一瞬にして消えた。
こいつは小学生の癖に俺以上に親父の様な言葉を使い、どこか賢ぶったカチカチな堅物野郎だったのだ。
その性格故、クラスメイトや先生からも煙たがられ、1人でぽつんと生活していたところ、たまたま似たような(と周りは言うが俺は納得していない)俺が転校してきたものだから俺に近づいてきたのだろうと俺は踏んでいる。
しかしこいつはそれを頑なに認めない。
虐められていた俺を「ボランティアだ」と言って助けただけだと主張する。
ボランティアの意味を3時間以上問い詰めたい衝動に駆られる時もあるが、こいつのおかげで中学においてもスムーズに友達ができたことは事実である。
悔しいながら、こいつへの返しきれない恩は積み重なっていくばかりだった。
………そう、あの夜までは
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