4人が本棚に入れています
本棚に追加
第5話
「………今日はなんてついてないんだ…」
明日から6月に入る都心の空は、ここ最近ずっと機嫌が悪い。
炭のような擦り切れた黒を描く空から降る雨は、まるで自分の機嫌の悪さを当たり散らすかのように泣きじゃくっている。
俺はこの日、傘を持ち合わせていない。
それに家族も全員予定があり、俺を車で迎えにくることができないでいた。
俺は日直だった為、少し居残りをして仕事をしていた。
優を含めた友達は皆既に帰っていた。
止まない雨を見上げたままなかなか校舎から出られないでいたが、ふと時計を見ると既に午後6時を回っている。
(仕方ない。鞄で頭上だけでも守って行くか…)
俺はそう決心し、学校から駅までの約1キロの道のりを走ろうと校舎を飛び出した。
一瞬にして全身を濡らす雨。
ピタリと俺の肌にしがみつく制服は、この無情な雨に晒され冷えた自身を、俺の体温で温めようとしているかに見えた。
(あと少しだ……)
駅の明かりが見えてきた時、背後から聞き覚えのある声がした。
「あれー?朱雀五郎じゃん?」
最初のコメントを投稿しよう!