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第8話
「ぶっ。泣いてんの?お前、だっせーなぁ」
俺の涙を見たそいつは、何故か引き攣った笑顔を貼り付けて俺を指差し馬鹿にした。
それでも俺は何も反応しなかった。
降りしきる雨と俺の顔を流れる血と涙。
全てが鉄のような冷たさで、鉛のような重さがある。
俺は只ひたすら、その場に泣きながら座り込んでしまった。
つい先程まであれだけ狂ったように叫んでいたアイツは、気がついたら俺に背を向けてどこかへと去っていった。
ふと自分の手を見ると、微かに震えていることに気づいた。
矢張り…………
矢張り俺は、まだまだ怖いのかもしれん。
日常的に浴びせられる罵声と揶揄。
直接体を傷つけ痛めつける暴力。
あの頃に味わった絶望と無力さ。
小学校を卒業しわざわざ少し遠い中学の受験を受けて入学したこの数カ月で、俺は克服したと思っていた。
しかし、まだまだ俺は、あの頃の弱い自分を許すことができていなかったのだ。
ふと空を見上げる。
思いがけない雨の力強さに、無意識に目を閉じる。
俺は今日のこの雨を、あの日の自分にどう例えるだろうか………。
もしあの頃、今と同じように涙や血と共に流す雨があったなら……
何年経とうが雨が示すものは変わらないと思うのだろうか……
きっとそうなのだろう……
俺は閉じた目をゆっくりと開けて呆然と遠くを見る。
地面に叩きつけられる白い雨は、真っ黒な背景に爪で細い傷をつけているようだった。
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