ドキドキ青春生活

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 翌朝、ぼくは朝食を取るためにリビングへと下りた。リビングでは父と母がスマートフォンを見せあいながら何やら話をしていた。 「おはよう。何やってるの?」 「アンタ、昨日の夜中にアプリ入ってこなかった?」と、母。 「は?」 父はぼくにスマートフォンの画面を掲げて見せた。それには「一日10万回」のアプリケーションが開かれていた。ハートの下には28356と数字が刻まれ、ぼくが見ている間にもその数字は増えている。 「なにこれ?」 「お前、このアプリ入ってないのか?」 「いや、入ってきてるけど」 ぼくは「一日10万回」のアプリケーションを立ち上げた。数値は28699回、その数値は見ている間にも増えていく。 母もぼくに向かってスマートフォンを掲げて見せた。数値は29524回だった。勿論、数値は1刻みで増えていく 「お母さん、カウント止めようと思って朝6時位に電源切って暫く放置したのよ。電源切った時は25000回ぐらいだったのよ。そうしたら……」 「うん、増えてるね」 「お母さん、ちょっと脈速いのよね。これ、一日の心臓の鼓動と連動してるって考えるとスッキリするのよ」 ぼくは笑い飛ばした。直接心臓に電極パッドを付けている訳もないのに、そんなことが出来るはずがない。確かに今のスマートフォンならインカメラで鼓動(脈拍)の検知も出来る機種はあるが、あくまでインカメラに指を当てている場合の話だ。手元から離れたり、電源を切っている間も鼓動を検知するなどあり得ない話だ。非接触なのに心臓の鼓動の検知が出来る筈がない。 全く、誰がこんなアホみたいなアプリを作ってバラまいたと言うんだ。有無を言わさずに強制ダウンロードと言うのが余計にタチが悪い。 ぼくはそんなことを思いながらテレビを点けた。朝のワイドショーの話題は「一日10万回」のことだった。アナウンサーもコメンテーターも気がついたら入っていたなどと「一日10万回」に関して疑問を呈していた。各局、ハシゴをしてわかったことは「昨日の夜までは間違いなくなかった」「天辺を過ぎてスマートフォンに通知され、見たら入っていた」「携帯電話会社全社も知らぬ存ぜぬ」「アプリケーションの削除は出来ないし、ホーム画面のアイコン(ショートカット)を消すことも出来ない」と言うことだ。 ただ、とあるテレビ局が医者の循環器内科の先生に話を聞いたところ、電極パッドを胸部につけて測った鼓動と、「一日10万回」のアプリケーションで計測される鼓動は完全一致していたと言う。 その先生も測定中に激しく体を動かして無理矢理心拍数を上げてみたのだが、心電図の鼓動数と「一日10万回」のアプリケーションの鼓動は完全一致。 理由は分からないが、鼓動の測定に関しては限りなく正確であると認めざるを得ないと言う結論が成された。
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