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その時、店員さんと共に、スーツを着た背の高い1人の男性が入って来た。
「いらっしゃいませ。ここのオーナー兼デザイナーの柴崎と申します」
にこやかに笑う彼には見覚えがある。
「勝!?」
中学の頃の同級生……で、私が初めて付き合った人。
高校進学で自然消滅しちゃったけど。
「玲、久しぶり。結婚するんだって?」
勝くんは、昔と変わらない人懐っこい笑顔で話しかける。
私たちが会話を始めると、店員さんは一礼して部屋を出て行った。
「一応ね」
私は曖昧に笑う。
どうせこんなところで再会するなら、幸せ自慢できるような彼氏と並んで再会できれば良かったのに。
「相手は? 社内恋愛とか? 写真見せろよ」
勝はあの頃に戻ったかのように、砕けた口調で質問してくる。
「んー、写真は……、ないの」
お見合いをして2ヶ月。
実はまだ手を繋いだこともなければ、仲良く写真を撮ったこともない。
ほんとにこんなんで、大丈夫なのかな?
私の胸に、また不安が押し寄せる。
「写真がない? なんで? デート先とか旅行先とかで撮るだろ? 相手の衣装も併せて決めたいから、見せろよ」
勝は、私が恥ずかしがって見せないだけだと思ってるみたい。
「……違うの。あのね、実は2ヶ月前にお見合いで知り合ったばかりなの。だから、写真もない」
私は、これ以上、しつこく聞かれたくなくて、本当のことを言った。
「見合い!? 玲が!?」
驚いた勝が目を丸くする。
そうよね。私、そんなに結婚願望なかったし。
「会社でも、同期で私1人が独身だし、伯母の勧めもあって、そろそろ潮時かなって思ってね」
私は、少し目をふせて、視線を、勝からドレスへと移す。
勝は何も答えない。
「勝は? もう子供もいるんじゃない?」
33歳なら子供が2〜3人いたっておかしくない。
「俺は、バツイチ。内緒な。こんな仕事しててバツイチなんて、縁起悪くて客が来なくなっちゃう」
勝は片目を瞑ってみせる。
「え、なんで?」
勝なら、誰とでもうまくやっていける気がするのに。
「独立してここを立ち上げた時に、ちょっとな。俺が仕事ばかりで構ってやれなかったから……」
勝は言葉尻を濁す。
私はなんとなくその先を察した。
ああ、浮気されたのか。
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