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「玲の相手はどんなやつ? 2ヶ月で結婚決めるくらいだから、余程いいやつなんだろ?」
いいやつ……
「いい人よ」
うん、いい人には違いない。
「仕事は? 警察官? 消防士?」
なんでそんな選択肢が出てくるのか不思議に思いながら首を横に振る。
「公務員よ」
私が答えると、勝は不思議そうにこちらを見る。
「今日は仕事で一緒に来られないって顧客情報に書いてあったから、土日関係なく勤務の公務員だと思ったんだけど?」
ああ、そういうこと!
「違うの。それ、嘘。ドレスはよく分かんないから、友達と行けって言われたの。普通の市役所勤めよ」
言ってて、自分で虚しくなる。
「……玲はそれでいいのか?」
勝は、私の左手首を掴んで引いた。
私は弾みでそのまま振り返り、勝と向かい合わせになる。
「……いいのよ。真面目だし、安定してるし、浮気もしなさそうだし」
そうよ。条件としては悪くない。
「一生だぞ? 玲も今年33だから、単純に考えて、あと50年一緒に過ごすんだぞ? 一生に一度の結婚式のドレスも選んでくれないやつと、50年一緒に暮らせるのか? そんなやつが、この先、子供の受験とか一緒に悩んでくれるか?」
そう言われて、ハッとする。
「……」
大丈夫……だとは言えない。
あと十数年経った時、父親の影が薄い家庭になりそうな予感は多分にする。
「俺、こんな仕事やってるから、いろんなカップルを見てきたけど、玲の結婚は祝福できない」
そんなにはっきり言わなくても……
自分でも分かってて目を背けてたことをズバズバと言われて、言葉を返せない。
「昔から言うだろ? 結婚前は両目で見て、結婚したら片目で見ろって。玲は、結婚前なのに片目で見てないか?」
勝の言うことは分かる。
分かるけど……
「仕方ないじゃない。両目で見てたから、今まで独身だったんだもん。片目を瞑って結婚できるなら、それでいいじゃない」
言った瞬間に、胸の奥につかえていたものが込み上げて、一気に涙となってあふれ出した。
そうよ。
どんなに好きでも、パチンコに毎月10万以上使う人とか、何度も浮気する人とか、仕事が続かなくて数ヶ月で辞めちゃう人とか、今までの彼氏ってそんなのばっかり。
それに比べたら、須藤さんは、真面目だし、浮気しなさそうだし、安定してるし、結婚相手としては申し分ない。
ただ、会話が続かないだけで……
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