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「新堂君も災難だよね。そんな子と一緒のグループになるなんて」
「やっぱりフツーの家の子はそれなりなんだよ」
「ボヤ騒ぎ起こすなんて普通じゃないでしょ。フツーに失礼だよ」
アハハと嫌な笑い声をあげている彼女たちの上にすっと影がさした。
え? と見上げればついさっきまで褒めちぎっていた洸夜の綺麗な顔が自分たちを見下ろしていた。
「あ、あの……?」
と、ドギマギと見上げる彼女たちに、
「君たち、うちのグループの下級生のこと、好き勝手あれこれ言わないでくれる?」
とキッパリというと洸夜は元いた場所に戻っていった。
カッコいい〜と黄色い声が背中に当たっても素知らぬ顔で座った新堂の隣にいた男子が不愉快そうに唇を曲げた。
「おい、そこの三年」
と声をかける先にはさっき女子の槍玉に上がっていた痩せた三年が座っている。かれの胸についた名札には西條冬木と名前が書かれている。
「なんか問題起こしたら先生に言うからな。いいな」
高圧的な言い方に西条の周りにいる他の三年は首を縮めて彼をかばおうとしない。
「やめろよ、西」
と新堂が止める。
助けられた冬木が〈あ〉の形に口を開いて彼のことを見たが、新堂は目が合いかけた瞬間ついと視線を外してしまった。
冬木は膝を抱えた自分の手に目を落とす。
洸夜がそんな彼の顔を窺うようにそっと見るが下を向いている冬木は洸夜の視線に全く気づいていない。
*
一ヶ月後の十月二十日。
とうとう異学年交流を兼ねた自然教室の一日目がきた。
上級生が下級生の面倒をみながら洗濯、掃除なとの生活体験をしつつ、一日目は昆虫採集や森の散策等の自然体験、二日目は軽登山、三日目はキャンプ体験とテント泊、そして四日目の朝、バスで現地を出発し午後三時から夕方の間に学校着の予定だ。
洸夜の班は五年三人で三年四人の構成で、グループリーダーの洸夜は、あの表情が乏しくていまいち感情が掴めない冬木と、井出という女の子の二人の面倒を見ることになっている。
「冬木君、井出さん。三日間よろしくね。一緒に仲良くやっていこう」
と声をかけると、井出は嬉しそうに頬を桜色にして飛び上がり、冬木は見開いた目でじっと見返してきた。
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