65人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
22・心、キミ逝く。
空は晴れて、わずかに見えているビルとビルの間の闇に星が見える気がした。
ザワザワと話し声が聞こえて、入り口から何人ものスーツ姿の年配者が出ていくのを眺めていた。
食事会が終わったのだろうか。
隣に座っている孝弥も気がついて、息を呑む様に入り口を見つめていた。
そこから誰が出てくるのを一番に待つのだろうか、とあたしは考えた。
これから、モヨから沖野さんとモヨの姉が婚約を交わしたことを聞かされるのかと思うと、なんだかやりきれない。
「どう言うことなんだ、白紙に戻すとは」
「金輪際関わらないって、そしたらうちの会社にも何かしら影響してくるぞ」
先ほどから、足早にビルを後にする人たちが迎えの車に乗り込むまでの間に、口々に困惑した様に話しているのが聞こえてくる。
怒っている様な人もいたし、落胆している様に見える人もいる。食事会で何があったのか、不安になってくる。
「モヨは……まだ中にいるのかな」
ポツリと孝弥が呟く。
あたしはスマホを取り出してモヨにメッセージを送った。
》今奥田ビル前にいるよ。今日の食事会にモヨも参加していたの?
沖野さんは食事会のメインだから、もしかしたらスマホを見れる状況ではないかもしれない。モヨが気が付いてくれたら。
そう願いながら画面を見ていると、既読の文字が表示された。
「孝弥、モヨが気が付いてくれたかも」
「え……」
》今優志さんと一緒。孝弥もいる?
《いるよ
少し間をおいて、モヨから返信がくる。
》優志さんが沖野グループの車をエントランス前に呼んだから、それに乗って行って。あたしたちもすぐ向かうから
隣で虚な表情をしていまだに入り口付近を眺めている孝弥。一台の黒塗りの乗用車がビルのエントランス前に止まったのが視界に入った。
もしかしたら、あれのことかもしれない。
「ねぇ、孝弥、モヨがあの車に乗ってって」
「……え?」
あたしが指差す方をゆっくり振り返った孝弥は、ようやく気を取り戻した様に瞳を大きく開けた。
「……あれって?」
「沖野さんの会社の車みたい。モヨもすぐに沖野さんと一緒に来るって」
あたしもよく分からないけれど、孝弥もよく分からないと言った顔をしている。とりあえず、モヨに言われた通りに車に近付くと、運転席のドアが開いて運転手が降りてきた。
「永田孝弥様と雨宮詩乃様ですか?」
「……は、はい」
「どうぞお乗りください。社長もすぐにお戻りになられますので、一度我が社へご案内致します」
後部座席のドアを開けて、中に入るように促される。信用して良いものか悩むあたしは、もう一度あたりを見まわした。
「これは沖野グループの車で間違いない。大丈夫だ」
小声で孝弥が頷くから、あたしも続いて乗り込んだ。すぐに発進された車はテールランプの続く道路をゆっくり進んでいく。
最初のコメントを投稿しよう!