22・心、キミ逝く。

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 煌めく街の明かりは、夜とは思えないほどに眩しい。  こちらにいた頃は覚えた道だけを、歩く日々だった。同じことの繰り返しで、自分のやるべきことの意味がわからなくなることもあった。  世界は見渡してみれば知らないことばかりで、とても広いんだと感じる。もっと知ろうとすれば良かったのかもしれない。  窓にうつる景色はどれも見たことがあるようでも、初めて見る感覚だった。  沖野ビルへ到着したあたしと孝弥は、入り口で待っていた男性に案内されながら最上階へとエレベーターに乗り込む。開いた扉の向こうには、少し靄のかかった雨上がりの夜の夜景が広がっていた。  それでも、やはり見慣れない景色に胸が高鳴る。 「すごい……」  案内役の男性に「今しばらくお待ちくださいませ」と頭を下げられ、去っていくのを見届けた後に、孝弥がポツリとつぶやいた。 「俺はこの景色は嫌いだ」  窓の外を見ることなく席に座り、頭を抱えるから、あたしも湧き上がる興奮を鎮めて、隣に座った。 「こんな狭い世界で、どうして大切な人を守れなかったのか、悔やみきれない」  窓から見えた景色は壮大で広く感じたのに、孝弥にとっては狭い世界なのかと驚く。だけど、なんだかそれに納得できる気もした。  広く見えていても、実際は狭いこの世界で、あたしも孝弥もモヨも、沖野さんもキヨミさんも、もがき苦しんで生きてきたんだ。  それぞれが、それぞれの場所で。決して交わることなく同じ場所を歩いていた。  出会うタイミングなんて、誰にも選べない。  今、この時だから出会えたんだと、受け入れるしかない。受け入れたくないのなら、突き放すしかない。そうして、つながりは結びついていく。  あたしが沖野さんに出会えた意味は、あるのだろうか…… 「俺は、ねぇちゃんと出会えたことに意味なんてあったのかな」  あたしと同じように孝弥も考えていたのか、ため息を吐くように力無く笑った。 「俺ばっかりが大好きで、幸せで、ねぇちゃんにも幸せでいてほしかった。ただ、それだけが俺の生きる意味だったのに」  孝弥の俯く姿は無気力で、もう震えさえも感じ取れない。孝弥は、キヨミさんのことが本当に大好きだったんだと、あたしは胸が痛む。  あたしは一人っ子だから、兄弟の存在がどう言うものかを知らない。兄や姉に憧れを持つ時もあった。弟や妹が居れば良かったのにと、寂しく思うこともあった。 だから、姉を失い喪失感に崩れる孝弥の気持ちも、姉に裏切られ嫌悪感を抱き続けるモヨの気持ちも、当然分からない。  分からないけれど、抱える悲しみや怒りは深く重たいんだろう。二人が前を向いてまた笑える日が来るのは、これから先いつになるんだろうと、今は不安しかない。
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