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きっと、我慢できなくなってしまったんだろう。ゆっくり表情が歪み、眉を下げて口元に手を当てている。瞬きも忘れてしまったように日記帳から目を逸らすことなく、見つめている。
途端に、沖野さんの瞳から、ポロポロと涙が溢れ出す。
きっと、キヨミさんのこれまでの思いがそこには綴られているんだと感じた。
沖野さんに伝わることのなかった本音を知ったことで、彼は涙を流しているんだと。
嗚咽混じりに堪えながらパラパラとページを捲り、ついには、声をあげて沖野さんは泣き出す。日記帳を抱きしめ、ひたすらに「ごめん、ごめん」と、キヨミさんが目の前にいるみたいに謝り続けた。
薄暗い外の景色が、より悲壮感を誘う。
もう、そこに希望はないのかと、沖野さんの涙にあたしまでもらい泣きをしてしまいそうになる。
膝から崩れ落ちた沖野さんは、体を小さく振るわせながら、泣く。
大切な人を亡くした悲しみは計り知れない。
あたしにはない経験だから。沖野さんにかける言葉もなくて、ただ見守るだけしか出来なかった。
しばらく泣いた沖野さんは、椅子に座り直すと日記帳をもう一度開いた。そして、愛おしそうに開いたページを指先でなぞる。
「ありがとう……キヨミ」
沖野さんの言葉に、孝弥は優しく微笑んだ。
「それ、沖野さんにあげます。姉ちゃんが伝えきれなかった思い、ちゃんと受け止めてやってください。そして、今まで俺の大切な姉ちゃんのこと、愛してくれてありがとうございます」
スッと立ち上がって、孝弥は深々と頭を下げた。
沖野さんは驚いた後に笑って、「ありがとう」と笑った。
よかった。みんな笑えてる。
きっともう、少なからず悲しみは受け止めている。前を、向き始めている。
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