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肌を掠める風が、柔らかくなった。
夏ももう終わりに近づいている。
キミのいた場所は、僕のいる場所に比べて暑さが穏やかな気がする。まるで、僕を許してくれるような、そんな柔らかい風に感じて、涙腺が緩む。考えるだけなら僕の勝手だ。
キミは、もしかしたらまだ許してくれていないかもしれない。もっと、話をしたかった。分かり合いたかった。
駅に降り立ち、雨宮さんに教えてもらった生花店、フラワーショップ・レインへ向かう。キヨミの好きだった花はなんだろうと考えてみるけれど、よくよく考えてみても、何も思い浮かばなかった。だから、お店の方にお願いして、適当に綺麗な旬の花を纏めてもらった。
キミが最期にいたこの場所に、戻って来れた。ようやく、会いに行ける。
長い間、待たせてごめん。
ごめんだけじゃ、足りないだろう。
キミと出逢えて、キミといて、愛し、愛されて、僕は本当に幸せだった。
僕だけが幸せではいけないと、こんなにも大事なことを、どうしてキミは教えてくれなかったんだろう。責めてしまうのは良くない。
だけど、キミが思い悩んでいたことを、僕に話してくれていたら、僕が気づいてあげれていたら。後悔ばかりが募って、悲しくなる。
キミも僕も、きっと大人になりきれていなかった。「好きだ」とか、「愛している」だとか、言葉はあっても、きっと繋がりは緩く解けやすいものだったのかもしれない。
一人で抱え込まずに話して欲しかった。キミが話してくれなかったのは仕方がない。そればかりは、全部頼りなかった僕のせいだ。
今となっては、全て水の泡だ。
手にしていた花束を、そっと墓前に供えた。
ふと、お墓の横、雑草の生えた場所に視線を落とすと、そこに鈴蘭の花を見つけた。
思わず、口元が綻ぶ。
キミは、尚も僕との再会を喜んでくれるのだろうか。もう二度と会えなくても、ここに来れば、いつでもキミと再会できる。
もうすぐ、キミと出逢った冬が来る。
僕は懲りずに、窓の外にキミが現れてくれることを期待しながら、車を走らせるのかもしれない。
笑ってくれていいよ。
いつかまた、遠い未来でキミに出逢えると信じて、僕は強くなる。
僕が歳をとってキミには馴染みのない姿になってしまっても、また見つけてくれるといいな、なんて、子供みたいなことを思っているよ。
明日からは、キミの想いに恥じぬように、全力で生きることを約束する。
だからどうか、安らかに。
愛してた、キヨミ。
ありがとう、さようなら。
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