22・心、キミ逝く。

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 肌を掠める風が、柔らかくなった。  夏ももう終わりに近づいている。  キミのいた場所は、僕のいる場所に比べて暑さが穏やかな気がする。まるで、僕を許してくれるような、そんな柔らかい風に感じて、涙腺が緩む。考えるだけなら僕の勝手だ。  キミは、もしかしたらまだ許してくれていないかもしれない。もっと、話をしたかった。分かり合いたかった。  駅に降り立ち、雨宮さんに教えてもらった生花店、フラワーショップ・レインへ向かう。キヨミの好きだった花はなんだろうと考えてみるけれど、よくよく考えてみても、何も思い浮かばなかった。だから、お店の方にお願いして、適当に綺麗な旬の花を纏めてもらった。  キミが最期にいたこの場所に、戻って来れた。ようやく、会いに行ける。  長い間、待たせてごめん。  ごめんだけじゃ、足りないだろう。  キミと出逢えて、キミといて、愛し、愛されて、僕は本当に幸せだった。  僕だけが幸せではいけないと、こんなにも大事なことを、どうしてキミは教えてくれなかったんだろう。責めてしまうのは良くない。  だけど、キミが思い悩んでいたことを、僕に話してくれていたら、僕が気づいてあげれていたら。後悔ばかりが募って、悲しくなる。  キミも僕も、きっと大人になりきれていなかった。「好きだ」とか、「愛している」だとか、言葉はあっても、きっと繋がりは緩く解けやすいものだったのかもしれない。  一人で抱え込まずに話して欲しかった。キミが話してくれなかったのは仕方がない。そればかりは、全部頼りなかった僕のせいだ。  今となっては、全て水の泡だ。  手にしていた花束を、そっと墓前に供えた。  ふと、お墓の横、雑草の生えた場所に視線を落とすと、そこに鈴蘭の花を見つけた。  思わず、口元が綻ぶ。  キミは、尚も僕との再会を喜んでくれるのだろうか。もう二度と会えなくても、ここに来れば、いつでもキミと再会できる。  もうすぐ、キミと出逢った冬が来る。  僕は懲りずに、窓の外にキミが現れてくれることを期待しながら、車を走らせるのかもしれない。  笑ってくれていいよ。  いつかまた、遠い未来でキミに出逢えると信じて、僕は強くなる。  僕が歳をとってキミには馴染みのない姿になってしまっても、また見つけてくれるといいな、なんて、子供みたいなことを思っているよ。  明日からは、キミの想いに恥じぬように、全力で生きることを約束する。  だからどうか、安らかに。  愛してた、キヨミ。  ありがとう、さようなら。
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