2・キミの行方

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 いつもの帰り道、自販機で缶コーヒーを買うとマンションへと入った。ドアを開けると冷たい空気を一瞬肌に感じ、キヨミの居ない寂しさをより強く感じさせる。  今でもたまに、キヨミが居るんじゃないかと錯覚さえ覚える。  リビングのソファーに腰掛け、缶コーヒーを開けた。静かな部屋にカシャンと小さな音がやけに響く。 「いつまで経っても、慣れないな」  まるで、キヨミに話しかけるような口調で言葉が漏れる。きちんと整理整頓されていたキミのいたあの頃とは違って、今のリビングはお世辞でも綺麗とは到底言えないほどに散らかっている。  会社関係の資料や洗濯して取り込んだままの衣類や下着がそのまま床に置きっぱなしになっている。缶コーヒーの缶だって、もう何缶溜め込んでしまっているんだろう。怒ってくれるキミは、もう側には居ない。  受け入れたくない現実に頭を振ってから一息つくと、ソファーから下りて床に座り、ローテーブルの上の資料とパソコンに手を伸ばした。最近はずっとリビングで生活している。  キミといた寝室では、寂しくて眠れない。  仕事の量が多いのはもちろんだが、それ以上にキミのことを考えなくてもいいくらいの多忙さが欲しくて、僕は寝ないでパソコンと向き合っている。  静かな部屋に、窓を叩く雨音が響きはじめた。今夜も雨か。そう感じた瞬間、目の前に置いてあったスマホの画面が光り、一定のリズムで震えはじめた。画面に表示されている相手の名前に、必然的にため息が漏れる。
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