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「……はい」
──お疲れ様です。メッセージの返信が無いので、お電話差し上げてしまいました。
申し訳なさそうに、最後に小さく「すみません」と謝る着信相手は、父が勝手に決めた婚約者、奥田グループの長女奥田 江莉だった。
──見てくださいました? なかなかお返事が頂けないので、心配で……
「ああ、すみません。その件なんですが…」
江莉からのメッセージが来ているのは知っていた。週末に食事に行きましょうとの内容だったはずだ。
「仕事が立て込んでおりまして、なかなか暇が取れないので……」
──社長のっ!
江莉は言い訳は聞きたくないと言わんばかりに、僕の言葉に割って入ってくる。
──沖野社長からのご提案でしたよ。その日は優志さんに暇を与えるっておっしゃっていましたし。
電話越しでも伝わる強気な江莉の態度に怯みそうになるが、冷静な言葉を選びながら丁寧に返す。
「社長と時間の調整など話し合ってみますので。また追って連絡差し上げます」
──優志さん、私は必ずあなたと結婚します。ちゃんと、私を見てください。では、失礼いたします。
最後まで、折れることなく自分の気持ちを伝えてくる江莉に、通話の終了したスマホは脱力した腕と一緒に床直前で止まった。それを握る手に力を込める。
僕は、なんて無力だ。
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