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御都部は昔からそうだった。
何かに付けて僕の身体に、肌に触れて来て、今のよう無遠慮に頬へ触れたり、突然手を握ってきたり。
出会い頭のハグは常で、男色の気でもあるのではないか? と噂されもした。
それが尚の事女子には魅力的に映るようで、それはそれは羨ましい限りで──。
この男は、僕の白い肌や髪の色、特に瞳の色を美しいと称えるのだが、そんなのは、祖父がフランス人だったからの隔世遺伝なだけで、自分の努力の賜物でも無し、却って彼のような男に讃えられると、何だか嫌味に取れてしまうのは……彼への嫌悪に他ならず──
今にしても頬を撫でた指を滑らせ、無遠慮に僕の口唇に触れた彼は、惚っとり口唇を綻ばせ、まるで接吻けの行動でも起こしそうで、僕は怖気立つと共に、微かな怒りを感じてしまった。
僕の反発を察知したのだろうか、彼は小さく『失敬』と呟くと、あっさりその手を引っ込め、
「実はね、ひと月ほど前、君を見掛けたんだよ。連れが居たからね、声は掛けなかったんだが……」
長い前髪を後ろへ撫で付けるような仕草を見せ、社用で出向いたコンベンションセンターの名前を出した。
──だから僕を思い出したのかな?
整形外科医として、専門誌でも取り上げられるくらい、名を馳せた父ならいざ知らず、医者にもなれず、しがない研究員に落ち着いた僕になど用は無い筈で、疎遠のままでも構わないのは……そちらもだろうに。
──でも……相談?お願いって? どういう事だろう……
サングラスの向こうから、静かにじっと此方を見据えられ、居心地の悪さにまんじりともせず居ると、小さく咳払いを絡めた御都部は、
「二年ほど前、母親に付き添われて一人の患者が僕を訪ねて来てね……」
ゆっくり立ち上がり、奥の部屋へ続く扉へ向かうと、
「何でも顔に酷い怪我をしたとかで、方々の医者に掛かったそうだが、その治療に納得が行かないと──」
『ちょっと待っててくれたまえ』そう言い残し、扉の奥へ姿を消した。
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