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患者の肖像②
父が外科医だった事も有り、外科処置後の患者も良く目にした物だが、正直、こんなに酷いものは見た事が無かった。
顔面を縦横無尽に走る裂傷……何依りも痛ましいのは、左側の眼球が在ったと思しき空洞で、顔にぽっかり空いたその闇から、何か怨み言でも聞こえて来るようだった。
「これ……眼球は……」
恐る恐る訊ねたが返答は無く、
「不運だね。嵩祢は、酷い男に目を付けられてしまったんだ」
『恐ろしい写真』を手早くサッ──と裏返した御都部は話を続けた。
「隣に住んでた奴だったそうで、そいつは嫌がる嵩祢を、神社の祠に閉じ込めて……解るだろう?」
妖しく衝撃的な話を始めた。
「何でも随分と秀才だったそうで、嵩祢は苦手な教科を教えて貰ってたそうだよ」
件の写真は目の前から消えたものの、目にしたのは、一分にも満たない間だったのに、まるで脳へ転写でもされてしまったようで、何だか怖気と胸苦しさに苛なまれ出し、ぼう──っと眩暈まで感じた。
「僕は思うのだよ。そいつは、初めから嵩祢を、そんな風に弄ぶ魂胆だったんだろうと」
忌々し気に口にすると不意に押し黙り、僕の後方を窺ったかと思うと、小さく息を吸い込み、徐に立ち上がった。
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