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倣うように後ろを振り返ると、奥の部屋への扉が少しだけ空いていた。
ほら──、やっぱり誰かがいる……
尻尾を掴んでやった感に御都部へ目を遣ると、扉に近付いた御都部は、軽く押してそれを閉め、羞恥んだような笑いを見せた。
サングラスの所為で、表情が判り難いので、それが却って不気味に感じた。不気味に──と言うのは少し失礼なものだが、その時、確かに不気味を感じたのだ。
「嵩祢は嫌だと、泣いて勘弁してくれと頼んだそうだよ。それでも毎日のように行為に付き合わされ……身体も心も相当傷付いたそうだ」
一息に話した御都部は深い溜息を吐つき、
「──とても恥ずかしくて、誰にも言えなかったんだよ」
芝居がかった仕草で頭を抱えて見せた。
嫌がる綺麗な男の子が、男にレイプされる図とは……それは相当痛ましい図だな……などと憐れみながらも、腹の内に多少艶っぽい想像を思った僕は次の話を促す相槌を打った。
「ある日、いよいよ辛抱出来なくなった嵩祢は、理由を他へ付けて、隣り町の親戚の家へ身を寄せ、その男から隠れたそうだよ」
予想外に興味を惹かれる話に、僕は熱心に聞き入ってしまっていた。
「それが良くなかったんだな、隠れるも見付かってしまったら、前依りも酷い事をされるようになって……」
美貌の少年に執着した男は、どんな要求をしたのだろう? などと、一寸いやらしい想像に、思わずゴクン──と卑しく喉を鳴らし珈琲を飲んでしまった。
「それを拒否したら、男は狂ったように怒り出して……嵩祢は乱暴された挙句、顔を滅茶苦茶に切り刻まれたんだ」
口を噤んだ御都部は、僕の珈琲カップを覗くと、
「お代わりを淹れて来ようか?」
言葉を切り、僕へ微笑を向けた。素直に礼を言いながら、僕は僅かに残った珈琲を飲み干し、カップを渡した。
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