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──その写真を見た僕は息を飲んだ。
写っていたのは、間違い無く一枚目の男の子だ。何かの呪いのように切り裂かれ、無惨な有り様だった顔が……
「二年間で、百を数えるくらい手術をしたんだよ」
御都部が得意げに言うその回数よりも、あれ程酷い傷が、瘢痕すら残さずに消え失せている様に、
「素晴らしい、素晴らしいです。御都部さん、正にこれはお父上の……」
純粋に、感動のまま僕は口にしたのだが、そこではた──と気付いた。
──これか。僕に、これを見せたかったのか。
生前、父を訪ねて来た彼の父親が、夜更けまで良く議論をしている場面を見た。
それは口角泡を飛ばす勢いで、何度も繰り返されたテーマで。
特殊な培養表皮を使っての、皮膚再生法……
父は何度も何度もその危険性を口にし、異論を唱えていた。そして僕にもよく嘆いていた。
『あれは、大変なリスクを伴う方法だ。何依りも人体への副作用への検査がお座成りでは──』と。
そして非難混じりにこうも言った。
『御都部の培養表皮による皮膚再生法……あれは悪魔の業だ──』と。
写真を手に言葉を失い、唸るしか無い僕を、不敵な笑みを湛え、サングラスの向こうから静かに見詰めた御都部は、
「そう──、悪魔とまで言われた、僕の父が残した『皮膚再生法』で、嵩祢はこの美しい顔を取り戻せたんだよ」
勝利宣言でもするように言い放った。
僕は、素晴らしいと素直に讃えた。
あれ程の傷が、幾度も手術をしたとしても、ここまで綺麗な顔へ戻せるとは。
俄かには信じられ無い事だが、この男は成し遂げたのだろう。
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