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ついてない僕
随分と春めいた気候になっては来たが、日中の気温が高いせいか、日暮れ時の寒さはやけに厳しく堪える。
車を乗り捨て緩い坂道を登りながら、時折り身体を叩くような北風に僕はブルっと身を震わせ、コートの襟を掻き合わせた。
その日は、目覚めからしてツイて無かった……
目覚まし代わりに枕の下へ忍ばせたスマホが、何時の間にやらベッドから滑り落ち、寝坊も然かりだが、画面に酷いひび割れを作ってしまっていた。
「あちゃ~。機種変したばかりなのに──」
虚しく呟いた僕を嘲笑うよう、着信を伝える振動が起こり、眠気もふっ飛び身構えた。
電話の相手は暫く顔を合わせていなかった御都部と言う男で……彼の声を聞いた途端、静かな威圧感を思い狼狽いでしまう……僕に取って御都部とはそんな男だった。
『久しぶり』の挨拶に続いて、
『──君は、未だ独りなのかい?』
不躾に訊ねられ、口篭りながら『……まぁ……』と返すと、苦い物がじわり──と胸に淀んだ。
簡単な近況を伝え合うが、弾む話の有るでも無しで会話は途切れ、
『今日、少し時間を作れ無いかい? 小一時間で構わないんだ……』
彼にしては妙に謙虚な口振りで、僕の予定を窺って来た。
「夕方なら……退社後で構わなければ……」
結局、僕が御都部の家へ出向く約束となった……なったのだが、実の処、気が進まなかった。
僕は、この御都部と言う男をどうしても好きになれずにいたからだ。
御都部とは親同士が同じ外科医であることも縁で、かれこれ十年を越えて家族ぐるみの付き合いをして来た。
彼の父親が亡くなり、後でも追うように僕の父も逝き、付き合いも薄くはなったけれど……
──正直、それで良かったんだけどな
理由は簡単明快、僕は彼に接する度、著しく男としての嫉妬を感じるからだ。
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