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闇への誘い
写真をテーブルに置き、称賛の言葉を伝え、早い処お暇とましようと僕が口を開き掛けると、それを遮るように御都部が声を発てた。
「──だが……失った物は、どうにも出来なかったんだ」
なるほど、写真の美しい少年の左目は、大きなガーゼで覆われていた。
幾ら優れた再生法でも、眼球までは無理だったと……その声は、深い哀しみが滲んで聞こえた。
「義眼を幾つも作らせたんだが、どれも気に入らないと言うんだよ」
困惑した様子ながら、何処か満更でも無い御都部の口振りだった。
「左眼を失って、深く悲しむ嵩祢のご機嫌を取るのに、僕の眼を上げたんだが……」
その言葉を聞いて、御都部のサングラスの謎を理解した僕は、狂気に寒気を覚えた。
「こんなのじゃ嫌だと、投げ捨てられてしまったよ」
ククッ──と嗤った御都部を驚きで見詰めた僕は、眼球が潰れるグシャリ──と言う音まで聞いた気がして、口元に運んだ珈琲カップを、危うく取り落としそうになった。
「……が良いと、言うんだよ」
口の中で呟くような声に、聞き逃してしまった僕が聞き返し、首を傾向けると、
「あの日、嵩祢も車の中から君を見たんだよ」
不意に立ち上がった御都部はこう囁いた。
「あれが良いと……君の眼が欲しいと言うんだ」
僕の隣で跪き、そっと手を取ると優しく握って来た。
「解って欲しい。僕は嵩祢に嫌われるのが一番辛いんだよ」
自分が何を言われているのか、どうにも判断が出来ず、握られた手も振り払えず、返答にも困ったが、先ほどから襲われていた怖気が一層益し……困り果てると、視界まで霞んで来た。
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