ついてない僕

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 出社時刻を大幅に過ぎている事に、慌てて部屋を飛び出した僕は、車のエンジンキーを回しながら御都部(みとべ)を思った。    初めて彼を見たのは、高校へ入学して直ぐ、友人の付き合いでテニス部の体験入部を申し込みに行った時だ。  丁度練習を終え、着替えに集って来た部員達の中で、一際鍛え抜かれた身体の持ち主が御都部だった。  同じ学年と紹介されたが、一年とは思えないその体躯に、驚きと羨望から堪らず何者かと訊ね、知らないのかと驚いた友人は、 「あれが御都部君だよ。父上が形成外科医で有名じゃないか」  名前は聞き及んでいたものの、天才と誉れ高い形成外科医を父に持ち、それだけでも人並み以上に恵まれている御曹司が、誰もが羨む程の美丈夫で有った事で、恐らくこの時点で酷く劣等感を覚えたのだが……  僕が引け目を感じるのは、その体格だけに止留まらず、彫像のように美しい肉体に、何処か妖しい色気を感じる美貌が乗っかっているもので。  皆んな口を揃えてこう言うのだ。 『隣には絶対に並びたく無いよな──』   ──なのに──。  ひょんな切っ掛けで、親同士の交流が始まり、何時の間にやら彼とは、お互いの家を行き来する付き合いとなってしまっていた。
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