12人が本棚に入れています
本棚に追加
緩やかな坂道を中程まで登った辺り、そこが目的地の御都部邸だった。
訪問予定に告げた時刻を随分と過ぎ、追い立てられるようにチャイムを押した。
──なんだか今日は、朝から焦ってばかりだな……
なんて、胸の内でぼやきながら再度玄関チャイムを鳴らし、どうせ何時ものように一方的な話を聞かされるのだろうな……と、僕は覚悟をして待った。
一向に応答の無い事に、もう一度チャイムを鳴らそうと指先を伸ばした時、扉が開き、出迎えた御都部は開口一番、
「随分掛かったんだね」
大仰に両腕を広げてみせ、無遠慮に僕の肩を抱いた。
そのまま室内へ促され、応接室へと変貌したのだろう『診察室』へ案内された。
御都部邸は数年前まで、『御都部医院』を掲げていた筈で、隣接する建物には数床だが入院施設も完備して居た筈だ。
「今は、診療も止めているんだよ。」
様変わりした室内に忙せわしく視線を巡らせていると、苦笑いで説明をした彼は、『今、お茶を』と奥の部屋へ消えた。
小さく『お構いなく』と向け、姿を消した御都部が、部屋の中だと言うのに黒いサングラスを取らない事に奇妙を感じ、それに被せるように、まるで倉庫のようなこの部屋を思った。
最初のコメントを投稿しよう!