乖離

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乖離

鳴海 純(なるみ じゅん) : 「え?先生?今・・・」 描写と・・・話をしている? でも、どういうこと? 描写だと思っていたものも、誰かの話している言葉・・・だった? あなたは、誰?   : Nは何も語らない。 「………なんでも、ないよ。」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「本当に?」 KP : s1d100 (1D100) > 59 KP :  あなたは N が少し不満げな表情をしていると気づく。口をつぐんだ、というよりは、口をつぐまされた、というような不快感を覚えているように思うだろう。 鳴海 純(なるみ じゅん) : ここが誰かの書いている原稿の中の世界ならば、私は登場人物の一人なのだろう。 そしてNも。 では何が狙いなのだろう? この物語を終わりに導くことなんだろうか? それとも、もので満ち溢れた世界にすることなんだろうか? 「先生、物語を書いていると、登場人物が勝手に動き出す瞬間があったりするのでしょう?今、その時なのかもしれないですよ?」 いたずらっぽく笑う。   : 「そうだね。何を成そうか。」  N と相対しながら、君の舌から花ひらく言葉は君にどう映るだろうか。もしくは、N の咽喉から花さく言葉は君をどうとらえるだろうか。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「私、まずはこの舟を進めてみたいです。この舟はどこに行くのかしら。先生、帆を立てましょう!」 どこかに岸は見えないか、周りを見渡す。 そうか、岸すら言葉で紡がないと出てこないのかもしれない。   : 「どこにいくのか……また、行く必要があるのか。ねぇ、ご覧。あのおおきな魚、ずいぶんとやせ細ってきているようだ。」  錘から糸が巻かれていくような要領で魚から次々とゆらゆらと情景へ言葉が紡がれているのだから、当然と言えば当然だ。  しかし、そんな魚の透けてきた骨の奥に、君は何やら明瞭に意味をもつ文字の連なりを読む。 KP : <INT*3> 鳴海 純(なるみ じゅん) : CCB<=14*3 INT*3 (1D100<=42) > 83 > 失敗 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「先生、あそこに書かれている文字、なんて書いてあるのです?私には読めなくて・・・。ほら、あの骨の奥」 KP : <アイデア> 鳴海 純(なるみ じゅん) : CCB<=70 アイデア (1D100<=70) > 63 > 成功   :  ぐねぐねと曲がりくねった文字の連なりは、君が意味を掴むよりも先にするりと抜け出してしまった。  君は眼前の結果に対して、何やらぼんやりとした感覚を、さることながら不十分な感覚をおぼえる。もし今の描写が気に入らないのならば、もう一度君が行動を起こすよう、君自身が語ればよい。 鳴海 純(なるみ じゅん) : あの、文字の連なりの意味を、理解したい。 魚の骨の奥に、明瞭に意味をもつ文字の連なりを読む、今度こそ。 KP : <INT*4> 鳴海 純(なるみ じゅん) : CCB<=14*4 INT*4 (1D100<=56) > 36 > 成功   :  文字の連なりを辿っていけば、何やら呪文のように思えた。そして不意に、その呪文めかしたものが、君を抱擁するようにまばたきをした。 KP : 【SANチェック 1/1d4】 鳴海 純(なるみ じゅん) : CCB<=60 SANチェック (1D100<=60) > 57 > 成功 system : [ 鳴海 純(なるみ じゅん) ] SAN : 60 → 59 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「え、何?・・・嫌!やめて!」 呪文めいたものを払いのけるように、腕をぶんぶんと振り回す。   : 「……大丈夫かい?魚の骨は、分からないけれど。あの表面をまとう文字には覚えがあるよ。この世界へ来てしまう前に書いていた作品で、書いてからやっぱり消してしまった文字や文章ばかりだ。ここへ来た時に、この世界は私の書いた原稿なのではといっていたのは、本当のことかもしれない。」  いや私の言葉だ。N はかぶりを振る。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「書きかけの作品・・・その世界・・・。その作品を、先生が、いえ、あなたが書き上げることができたら、この鮮やかで儚い世界から、出ていくことができるのでしょうか・・・」 私とNを見ている、誰かに向かって問いかける。   : 「……語れば語るほど、あのおおきな魚は痩せていっているようだけれど、すっかり語ってしまったらどうなるだろうか」  N は舟から半ば身を乗り出して呟いた。嬉しそうに笑う。 「いや、全く笑えないよ」 KP : s1d100 (1D100) > 96 KP :  N は少しだけ泣きそうな顔をしている、とあなたは思う。そこにどういった感情があるのかはわからない。どれもが混ざっているのだろうか。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「痩せていってるのなら、何かを食べさせたらいいのじゃないかしら?」 大きい魚が小さい魚を食べたりしないだろうか。舟から覗き見る。   :  ちいさな魚たちは相変わらず自由気ままに飛び交っては、のぼりたつ情景へ染み入るように貪るように散らばっている。早く退治しなければ、私はあれらを好かない。 「いいや、私は君に必要になるものだと思う」   : 今やこの場にはものが溢れてきている。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「私に必要になるもの?小さい魚がですか?」 驚いたように小さい魚を見る。 Nが言うことと、誰かの言っていることが相反しているようで、よくわからない。   : 「……ほら、このままものが足り続けていけば、次第に天辺までたどり着いてしまうよ。そうすれば、」N が何やら言おうとしたその時、ごおっと情景の言葉の繭がうち震えて身もだえをした。ちいさな魚の群れが逃げるようにばっと飛び去る。  その向こうには、ちいさな魚に噛みつかれ痛々しく言葉をしたたらせる繭がいた。 「痛々しい……」  N は呟くが、それ以上は何も言わない。   : 水面を彩る涼やかな紫陽花の色彩。   : いつの間にかどこからか流れてきた薔薇の花びらがところどころに景色を飾っている。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「そういえば、あの繭は何なのでしょう?先生は、あの繭が何なのかご存知なのですか?」 目を凝らしてよく見てみる。 なぜ震えているのだろう?中に、・・・何かいるのだろうか?   : 「言葉でできていることは間違いないみたいだね。私にもそれの正体は分からないけれど……。でも、不思議だね。あの繭はちいさい魚に齧られていた。だけどおおきな魚はちいさい魚を食べてはいないようだ。ここに具現化するものは全て、あのおおきな魚から出てきた文字から形成されているようだけれど……すっかり語ってしまったらどうなるんだろう。」  N は舟から半ば身を乗り出して呟いた。嬉しそうに笑う。 「いや。……いいや、全く笑えない」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「言葉でできている、繭。繭だというなら、これから羽化するのかもしれませんね」 思いついたまま口にした言葉でハッとなる。 繭がこの後どうなるのか、気になってくる。蝶、だろうか。 だがそれと同時に、Nの言葉も気にかかる。 「先生は、すっかり語ってしまったら、おおきな魚が何も生み出さなくなってしまうのではないかと思っているのですね・・・それが怖いのです? 先生自身が、作品をもう生み出せなくなるのではないかと、・・・怖いのですか?さみしいのです?」   : 君の言葉に呼応するように、繭がうごめく。その表面が何かを成そうとするかのように。 「いや、そういうわけじゃない。私は笑いたくないのだ。この状況に。このままでは帰れなくなるよ」 「だって、」N がくちびるを開きかけたその時、ざあっといっとう激しくおおきな魚がのたくって、舟が大きく揺れた。ちいさな魚のうち幾匹かは舞い上げられて言葉の繭にしたたかにぶつかりぐったりとしていた。N は困ったように舟の外を見やっては、杞憂だといいけれど、と呟いた。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「でも、先生。私も帰りたいのはやまやまなんですけど。いったい何をしたらいいのか、皆目見当がつかないのです」 本当に困ってしまった。 何かを見逃しているのかもしれない。 目を瞑って考えれば、何かいいアイデアが思い浮かぶかもしれない。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「あのおおきな魚を太らせてしまったらどうなのかしら」 『痩せて骨だけになりそうだったおおきな魚は、どういうことかまたその身を取り戻し、先ほどまでよりよっぽど元気に泳ぎだした。』 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「これも、この世界では可能なの?」 KP : <製作「演劇」> 鳴海 純(なるみ じゅん) : CCB<=35 製作(演劇) (1D100<=35) > 84 > 失敗   :  咽喉に魚の小骨でも引っかかるかのような心地で、君の言葉は君の内側から出ることを阻んでしまった。眼前にはすがたを変えない『言葉』が佇んだままである。   :  語られる情景はさらに勢いを増し、各々が名前を提げて踊るように四肢をのばしはじめる。   : にわか雨よろしくしなだれる風鈴、 がこりとひっくり返るバケツ、 さざめく下駄、 なみなみ注がれる言葉が、 いよいよ溢れて君の周囲を彩っていく。   :  君たちの言葉に身を躍らせて、世界は次々と色づいていく。ちいさな魚どもの群れを蹴散らすのももう難しい話ではない。あとは私が結末を語れば、このものが足りない世界も幕を閉じる。 「いいや!いや、まだだ!その前に、……っ」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「先生、お願いしますね」 この物語を語るのは、作家であるNのはずだ。 ずっと話したそうにしていたではないか。 彼女は、淀みなく言葉を操り、誰にも邪魔されることなく、語りだす。 N : 「ああ、よかった。このまま物語内世界が終わってしまったらどうしようかと思った!」 KP :  あなたの言葉によって N はほうと息をつき、語った。N 自身の言葉で語った。新しい色彩がぱっと世界にこぼれ出て、あなたの言葉と撚りあわさっていく。言葉はするすると舟の上からかおりたち、おおきな魚から紡がれた言葉の情景を突き抜けて天高くのぼっていく。 N : 「物語を書いていく途中で、段々と『私自身』と『作品の中の私』とが混ざっていってしまってね」 N : 「それでも書くのに夢中になっていたら、すっかり物語内世界の『私』とひとつになって、閉じ込められてしまったのだ」 N : 「それからは、語り手が逆転してしまった。君へ思うように言葉を告げることすらできなくなってしまっていたのだ」 N : 「君の言葉のおかげで、私は『私自身』の言葉でやっと話せるようになったよ。ありがとう」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「そういうことだったんですね。先生の本当の声を聞くことができて、良かったわ」 物語の登場人物になったと思っていたのに違っていたのは、少し残念だけれど。 「あの大きな魚がどうなってしまうのか気になるわ、先生。それにあの繭も」 N : 「あの物語内世界は私が書いていた作品の中の世界さ。とある古書店の店主から良い書き文句を教わったんだけどね。その言葉を使って書き始めていったら、いつの間にか物語の中に私そのものが吸い込まれてしまっていた」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「まぁ、まるで魔法の呪文みたい!」 さっきの魚の骨の奥にあった呪文みたいなものがそうなのかもしれないと思いあたる。 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「でも先生、ここはまだ物語の中みたいですね?この後はどうすれば・・・」 そうか。 先生が、物語の結末を書き上げればいいのかもしれない。 鳴海 純(なるみ じゅん) : だけど、まだ終わりにしたくないような気持ちでいる。 「先生はどんな物語を書こうとしていたんですか?」 N : 「そう……本当に魔法だったのかもしれないね。独特の言い回しで、その言葉を使って書けば、作品とより肉薄した執筆ができると聞いてね。まさかこんなことになるとは思わなかったけれど。」 N : 「書いていた物語の話は……ここではあまりしない方がいいだろうね。現実に戻った時に、そちらでちゃんと形にしなければ。ここだと……『私』に聞かれる。君も気づいてくれていたんだろう?」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「ええ、先生じゃない誰かが、先生に喋らせないようにしてましたね」 今、舟の周りはどうなっているのだろう? 周りを見回す。 KP : 船の周囲は、不穏なまでに静かだ。 N : 「私たちのことをずっと勝手に語っていた『あれ』は私であって、今は私ではない存在だ。境界を失った、私の言葉。」 鳴海 純(なるみ じゅん) : 「今は先生も、この世界を描写できるのです?周りが随分と静かですけど」 大きな魚はどこに行ったのだろう? 大きな魚の影を探す。 N : 「私は……自由に話せるようになったけれど、代わりに失ったものがある。それでも、あのまま終わるよりはよかったと思っているよ。だって今なら、君に、誰にも邪魔されることなく助言ができるからね。」 N : 「さぁ。そこにいるんだろう?……『私』」
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