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現実
KP : 眼球がしばたき、睫毛が震える。どれくらい時間が経ったのかはわからない。あなたがようやく意識を取り戻すと、あなたは手元に紙の束を抱えていた。紙の束には文字がたくさん連なっており、刻まれた文字のわずかな凹凸ひとつひとつが、窓から差し込む西日の目を見やって淡い色彩を反射していた。
あなたは知っている。これらの言葉が、とある作家からこぼされたものであることを。そして、あなたもまた彼と共に、物語へ自身の言葉を含ませて、共に織り上げてきたことを。
紙の枚数はそれほどない。言葉は次の文章からはじまっていた。
KP : -----------------------
さて、私は、これから何を語ろうか。書きたいことはたくさんあるし、誰にも読まれないよう書かずにしまっておきたいものだってたくさんある。
-----------------------
KP : あなたがこの文章を読むのは、二度目だ。
今のあなたであれば、思い出せる。あなたは、この紙の束に綴られた物語を読み、そうして次には、見知らぬはずの「N」という存在を訪ねていた。あなたも物語の登場人物のひとりになってしまっていたのだ。
あなたの脳裏に記憶が色づく。
そんなあなたに対し、背後から声をかける者がいた。
男 : 「やあ。いい読みものをしているね」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 声のした方を振り返って見る。
KP : どうやら古書店の店主のようだ。
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「ええ、あぁ、これです?最後まで読むと約束したの。・・・あの、失礼ですが、どちら様です?」
男 : 「名乗るほどの縁じゃない。君と会うのもここでの一度きりだろう」
男 : 「君の持っているその作品を回収しに来たんだ。それは私のものだからね」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「え、あなたのものですか?・・・でも、私はこれを読むように言われているので・・・申し訳ないですけど、渡せません。少なくとも今は」
男と距離を取るように、後ずさる。
男 : 「それは、困る。むやみに手荒な真似はしたくない」
男 : 「それに、その作品は少し危険なんだ。対抗策を持たずそのまま読んでしまえば、作品に魅入られて抜け出せなくなってしまうよ」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「もう行ってきました。そして、出てきたんです!」
じりじりと後退しつつ、最後のページを読もうとする。
KP : あなたの手元で紙束がかさりと音を立てた。思わず目を向けると、最後のページが開いている。そこにはたった一文だけが残されていた。
KP : 『作品を、言葉にしたためた私の枷を燃やしてくれ』
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「え?燃や・・・す?・・・そうか、呪文を破るために必要なのね」
火がつくものを持っていないか、近くに火をつけられるものがないか、探す。
KP : そうはいっても、タバコも吸わないあなたはライターやマッチなどを持ち歩いている記憶はない。しかし、油断すれば目の前の男に紙束を奪われてしまいそうだ。
あなたは少しずつ後ずさりながらダメ元でポケットを探ってみたりする。その拍子に、重力に引かれた紙束が床に向かって頭を垂れるようにしなった。
紙束の間から、ずるりと薄い金属が滑り出してくる。それは真鍮製のオイルライターだ。
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「あった、ライター!」
紙束が落ちないように、左腕にしっかりと抱え直す。
すかさず右手でライターを拾い、慣れた手つきで手首をかえして反動を使って蓋を開ける。
そしてヤスリをこすって、ライターに火をつける。
火がついたことに安堵して、思わず声が漏れる。
「よかった。お芝居で練習してなかったら、点けられなかった」
KP : あなたは流れるような動作でオイルライターを手にし、見事に使いこなしてみせた。火のついたライターを見た男はぎょっとして目を見開く。
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「これが先生の望みなの。呪文、破らせてもらうわよ」
男の方に原稿を突き出し、下から火をつける。
KP : あなたの手元からはばたくように、炎が一閃首をもたげた。強烈な熱がひるがえった。 男は悲鳴を上げて燃え上がる紙束に手を伸ばしかけるが、間に合わない。炎はめらめらと言葉を紙ごと飲み込んでいく。点も線もくしゃくしゃに歪んで、いらりいらりと黒焦げていき、灰色に失われていく。
男は自分の手が届かないことを悟ると、呻きよろめきながらかき消えるように姿を消した。
KP : やがて、紙の束はあなたの手を離れ、ひと際大きく
ぱちり!
と天辺から弾け、大きくのけ反った。
あまりに眩しい火花に、あなたは思わず、目をしばたかせるだろう。
睫毛が震える。やがてあなたは、目を開く。
?? : 「……ねえ、君」
KP : 眼前の人物はあなたへ語りかける。
?? : 「ああ、会えたのが君で、よかったな」
KP : 眼前の人物は最後わずかに残った紙片を大事そうに両手に包み、はにかむようにあなたへ笑いかけた。
?? : 「……最初に、何を語ろうか。君と語りたいことがたくさんあるし、君から聞きたい話だってたくさんあるんだ」
?? : 「でも、ひとつずつにしよう。そうだな、最初に……」
?? : 「私の名前にしよう。アルファベットでない本当の名前を、君に呼んでほしいんだ」
?? : 「私の名前は、」
新宮 優(にいみや ゆう) : 「新宮 優(にいみや ゆう)というんだ。今回は、巻き込んでしまって申し訳なかったね。」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「新宮、さん?あの、不思議なのだけど・・・初対面のはずなのに・・・そんな気が全然しないわ。先生、ね?」
新宮 優(にいみや ゆう) : 「ふふ……そうだね。『私』に好き勝手個人情報を語られてしまったから。君に『赤兎馬』まで持参させてしまうし、困ったものだ。」
新宮 優(にいみや ゆう) : 「でも、そうだ。君の劇団に取材に行かせてもらうのはとてもいい案だと思ったんだ。今度ぜひお願いしたいな。」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「私も今それを言おうと思ってたの!先生、ぜひ劇団に取材にいらしてね」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「そしてもう一度、あの素敵な物語を書いて欲しい。いいえ、私が物語世界で読んだものより、もっとずっと面白くて楽しくて切なくてハラハラする物語を、先生ならきっと書いてくださるわね」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「新宮先生、おうちに薩摩切子はあるのかしら?」
新宮 優(にいみや ゆう) : 「困ったな、ハードルが上がってしまっているようだけれど。物語世界にいた、過去の私に負けないよう頑張らなければね。きっと、もっといいものを書いてみせるさ。」
新宮 優(にいみや ゆう) : 「あるよ、薩摩切子。いいものを頂くときは、いいものを使いたくなってね。」
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「大丈夫!先生なら、書けます!私が保証します。私、書評も書くことになる予定だと思うのよ?よろしくお願いしますね?」
朗らかに笑う。
鳴海 純(なるみ じゅん) : 「やっぱり薩摩切子があるのね。そこも物語世界と一緒でよかったわ。いい女が二人、ラッパ飲みというわけにいきませんものね」
口元に手をあててくすくす笑った後、新宮の腕を取る。
「さぁ、これから先生のおうちに行きますよ!赤兎馬を改めて買って。私も話したいことが山ほどあるんです」
KP : そうして君たちはその場を後にする。ゆっくりと腰を据えて語り合う為に。
KP : 作家というのは難儀な生きものだ。言葉を紡ぎ、文字に書き起こし、文章を綴り、物語を織り上げる。とある作家曰く、書かずにはいられないのだと言う。とある作家曰く、書かなければ死ぬのだと言う。しかしとある作家曰く、それでもどうしても、書くことを愛しているのだと言う。
彼らは、物語の洪水の中に棲んでいた。
: 私と共に語った君へ。
ありがとう。
私は今も、物語の洪水の中に棲んでいる。
KP : クトゥルフ神話 TRPG「本翅の彩度」
シナリオクリア
エンド「黎明」
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