飛ぶように駆けてゆけ

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 ぱらぱらとフロントガラスに水滴が付いてゆく。昼過ぎから降り出した雨はアスファルトを黒く濡らしていくけど、傘をさす人はほとんどいない。運転席の父は少しためらった後でワイパーのスイッチを入れた。  二人きりの車内は重苦しくて、小さな音量で流れるFMラジオだけが車内に響く。助手席で松葉杖を抱え放心したように窓の外を見つめる私に、父もなんと言葉をかけて良いかわからないらしかった。  しかたないと思う。  今日、県立陸上競技場で行われた高校生活最後の大会。女子400メートルでインターハイ出場確実と言われていた私は、トラック半周の約200メートルを走ったところで右脚に強烈な痛みを感じ、走れなくなってしまった。大腿二頭筋の肉離れだった。  何故最後の大舞台でこんなことになったのだろう。少しだけ思い当たることがある。昨日ウォーミングアップしている時、わずかに右の太腿の裏にハリを感じていた。大したことでは無いだろうと思ったのが間違いだった。きっとオーバーワークの疲労を溜め込んだ右足が、本番の極限状態に耐えられなくなって悲鳴を上げたのだ。
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