飛ぶように駆けてゆけ

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 遠ざかっていく彼がゴールラインを駆け抜けた。隣の選手とどっちが先か、この角度からではよく見えない。  いや、よく見えていないのは視界が滲んでいたせいだ。    私はすぐに振り返って電光掲示板を見た。  結果は1位、タイムは50.34秒でベスト記録だった。 —ゴッちゃん、頑張ったね。  もう一度彼の方に視線を戻すと、チームメイトに囲まれて、まるでサヨナラホームランを打った野球選手のように体のあちこちを叩かれていた。  小さい頃から大人しくて控えめだった彼が、中学時代はずっと帰宅部だった彼が、今は何十人もいる陸上部のキャプテンらしい。  私のインターハイ予選は終わってしまったけど、彼の戦いはもう少し続く。まだ気持ちの整理なんかついていないけど、彼の行く末を見守ろうと思った。  少しだけおこがましいけど、その背中に私の思いも乗せてインターハイ本戦を走って欲しい・・ 「なーんて、面と向かって言ったらどんな顔するだろ。」  でも、例え照れ臭くてもこの想いはきちんと伝えておきたい。約二年余り、ずっとその背中を見続けたライバルだから。  そう誓った私は、足元に転がった松葉杖を拾って歩き出した。また溢れそうな涙を堪えて。 【飛ぶように駆けてゆけ】  了
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