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「お疲れ。今日は大変だったな。」
彼がとても気を遣いながら、言葉を選びながら私に声をかけてくれているのがわかる。
そして地面から浮いている私の右足に彼の視線が移った。
できれば見ないで欲しかった。
—ねぇ、君から見た私ってどういう風に見えてたのかな。もしも私を目標にして陸上始めたんだったらさ、飛んだ期待外れだよね。
そう思うと返す言葉もない。
「脚大丈夫?肉離れでも起こした?」
聞かれるとつらい。
そしてこのつらさを誰かにわかって欲しかった私は、俯いたままでナイフのように尖った言葉を吐いてしまった。
「・・何でもいいじゃん、そんなの。」
口から出たその言葉は自分でも驚く程に冷たくて攻撃的だった。本当はもっと違う言葉を言えばよかったのに。
私たちの間に気まずい空気が流れる。雨の音だけが耳に突き刺さった。だけど、私はそれ以上何も言えなかった。言葉を発すればまた泣いてしまいそうだった。
「そうか、じゃあな。」
私の心無い言葉に怒るわけでもなく、彼はそれだけ言い残すと足早に走り去って行った。
私はなんて事を言ってしまったんだろう。
「ごめん、ゴッちゃん。」
呟いた言葉が彼に届く訳もない。
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