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昭和の喫茶店でレモンティーを飲む
とにかく情報が手に入らないのがもどかしい。
パソコンもなければスマホもない。
そりゃそうだ。
炊飯ジャーがガス式の時代だ。
仮に今、無くしてしまったスマホが見つかったところで何の役にも立たない。
朝食を食べた後に裕子ちゃんの部屋で次に何をすべきかを考えるが考えがまとまらない。
「お姉ちゃん、街に行こう! お姉ちゃんの服を買いに! 」
裕子ちゃんはそういうと1万円札を手でヒラヒラとしてみせた。
裕子ちゃんのお母さんがシャツと下着を買うためにお金を預けてくれた。
ちなみにわたしは全ての手荷物を電車内で紛失した事にしてある。
街に行くも、わたしは今の時代がわからない。
だいたいこの1万円だって諭吉さんじゃなくて聖徳太子だ!
「あの.. 裕子ちゃんも一緒に行くんだよね」
「もちろん! そうだよ」
よかった....
さらに救いの手が向こうからやってきてくれた。
「おはよう! さっき和樹に会ったんだって? 何か赤くなったり怒ったり忙しかったぞ」
「直哉君! わたしを街に連れてって!! 」
タイミングよく現れた直哉君にどこかの映画のタイトルのような言葉が出てしまった。
・・・・・・
・・
「ケホケホッ」
凄い煙だ。
みんなバス停で好きなようにタバコ吸ってる。
とにかく煙い!
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「あのね、なんでみんな禁煙を守らないの? 」
「禁煙? 」
「何言ってるの? 」
裕子ちゃんも直哉君もキョトンとしていた。
「バス来たよ! 」
そのバスは角張って、まるで電車にタイヤを付けたみたいな形をしている。
そして停車するとモクモクと排気ガスで辺りが白くなった。
街に出るどの車もやたら角張りライトが丸い。
だいたいミラーの位置がボンネットの上だ。
道路はなんか煙っぽい。
沼津駅にはJRではなく国鉄と書いてある。
街は想像以上に人で溢れていて、むしろ令和よりも活気に満ちている。
看板の文字はやたらと大きく角張り、街を行き交う人々は、ラフな服装よりも 余所行きの服をきちんと着ている人が多い
少しばかりの眩暈に手をついた壁には『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』の映画ポスターが貼りだされていた。
仲見世商店街を歩くと洋服、電化製品、あらゆるものから時代の違いを感じる。
とくにおもちゃ屋さんには子供たちが多く集まっていた。
裕子ちゃんに洋服屋さんを選んでもらい、長袖のシャツ、女性用下着を購入する。
直哉君は店の外で待っている。
「もう買い物終わりか? ジーパンとか買いに行かないの? 」
「ねぇ、おねえちゃん、富士急百貨店行かないの? 」
2人はもっとゆっくり街で遊びたいようだ。
普通ならこの時代を散策してみるのも面白い。
だけれど、今は莉子と悠真君の方が気になる。
そしてそれが何よりも優先なのだ。
ただ最悪だけは考えたくなかった。
『街に出れば何か糸口が見つかるかも?』という考えは甘かった。
そんな漠然とした計画じゃダメなんだ。
あまりの暑さにどこかで冷たい飲み物やスイーツでも食べたくなった。
しかしさすがにスタバやサイゼリアなどないだろう。
しばらく通り沿いを歩くと喫茶店のショーウィンドウが見えた。
日射しから避難するように中に入ると、タバコの匂いが鼻をつく。
どの席の客も好きなようにタバコを吹かしている。
この時代に禁煙なんてないんだ。
「裕子ちゃん、パフェでも食べる? 」
「うん」
付き合ってもらった以上、お礼をしなければならない。
「俺、アメリカンね! それとビーフカレー! 」
直哉君も得意げに注文した。
わたしはレモンティーを飲みながらいろいろ考えてみた。
海の情報がもっとも集まる場所とは....
「直哉君、ここから沼津港ってどうやったら行けるかな? 」
「たぶん、バスがあるんじゃないかな? 」
港なら漁師さんの噂程度の情報も集まっているかもしれない。
莉子たちを見かけた漁師さんがいるかもしれない。
直哉君がカレーを食べ終わるころ、喫茶店の店長がやってきた。
「君たちお母さんやお父さんは? 君たちだけなの? ここは未成年禁止だよ。今回はいいけど食べ終わったらすぐに出て行ってね」
「ねぇ、直哉君、もしかして『喫茶店』って未成年禁止なの? 」
声をひそめて改めて尋ねてみる。
「そりゃそうだよ。学校に通報されることだってあるんだから。あまりにも智夏が堂々としてるから、つい平気なのかと思っちゃった」
「そういう時代なんだ....まるで異世界だ」
「時代? 異世界? 」
「いや、何でもない」
わたしたちは沼津港へ向かった。
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