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突風の誘い
時に強く吹く風に、トタンやガラス窓がガタガタと音を鳴らす。
すき間に何かがビュッと入り込み、扉を無理やり抉じ開けようとするのだ。
さらに、『起きろ!! 』とばかりに風は何かを煽り、ドカンッと大きな音を立てる!
目が覚めたわたしは、あの朝に戻ったのかと思った。
「裕子ちゃん? 裕子ちゃん? いる?」
「お姉ちゃん起きたの? 」
「よかった。返事がなかったから.. 」
「不安になった? 大丈夫だよ」
「私、お母さんに用事を言いつけられて、これから水野さんの家に行ってくるね」
裕子ちゃんは既に髪も整え着替えていた。
「待って、わたしも一緒に行く」
「ほんと? 待ってる」
・・・・・・
・・
水野さんの家は海とは反対方向の小高い丘の上にある家だ。
台風に備えてロープを張ろうとするが、ひと巻き分足りない。
『余ったロープがあるなら貸してほしい』と電話があったらしいのだ。
「おじさーん、望月でーす。ロープ持ってきたよ」
「やぁ、おはよう、裕子ちゃん。ありがとうね。良い子だね。助かるよ。ちょっと待ってなよ」
おじさんが下がると包みをかかえたおばさんが出てきた。
「おはよう、裕子ちゃん」
「おはようございます」
「そちらの人が例の? 」
「はい、智夏お姉ちゃんです」
「はじめまして。吉野智夏といいます」
「 ..んん? 」
「どうしたのおばさん? 」
水野のおばさんは、何か思うところがあるような顔をすると
「この方はご親戚かなにか? 」と尋ねた。
「違うよ。お姉ちゃんは.. お姉ちゃんだよ」
「あら、ごめんなさい。ただ望月さんのおばあ様の若いころに似てたから」
そうか.. 他人が見れば似てると思われても仕方がない。
だって実際 身内なんだから。
「お礼もらっちゃったね。こんなに。由紀子も喜ぶね」
「うん。そうだね」
水野さんから頂いた包みには『チェルシー』、『きのこの山』、『ポテトチップス』などのお菓子がたくさん入っていた。
どれもこれも食べたことあるお菓子だったが、『きのこの山』がこの時代にもあるのが意外だった。
「お母さん、ただいま! 由紀子は起きてる? 」
「おかえり、由紀子ならさっきそこにいたわよ」
「由紀子! お菓子もらってきたよ。大好きな『チェルシー』あるよ」
裕子ちゃんは階段から2Fに向けて声をかけた。
「由紀子、早く来ないとチェルシー食べちゃうよぉ!」
家じゅうで同じように声をかけるが由紀子ちゃんの反応がない。
「お母さん、由紀子いないんだけど? 」
「あら、どこに行ったのかしら? さっきまでそこでTV見てたわよ」
トイレを見に行ったがやはりいなかった。
すると玄関先から裕子ちゃんの声が聞こえた。
「お姉ちゃん、由紀子の靴がない! 外に行ったのかも!? 」
「もしかして、また置いて行かれたと思って追いかけたんだ、きっと! 」
「ねぇ、お母さーん、由紀子に水野さんのところに行くって言った? 」
「言ってないわよ。いないの? 」
嫌な予感がした。
毎朝、わたしと裕子ちゃんは堤防のほうに散歩に行っていたからだ。
「裕子ちゃん、もしかしたら由紀子ちゃんは堤防に行ったかもしれない。わたしはそっちを見てくるから、裕子ちゃんは水野さんの方向を探してきて」
「うん」
わたしは咄嗟に玄関にぶら下げていた『悠馬君の浮き袋』を手にした。
そして堤防へ走った!
なぜかわからないが、何かがわたしに『そうすべきだ』と告げるのだ。
急げ!! 急ぐんだ!!
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