5人が本棚に入れています
本棚に追加
リンク
堤防に着くと強い突風が吹いた。
と同時に由紀子ちゃんにあげた麦わら帽子が宙を舞う!
「いやっ!! 」
時折、ウネリで大きく荒れる海、由紀子ちゃんがおぼれている様子が見えた!
わたしが堤防に登ろうとしたとき、誰かが勢いよく堤防に駆け上り海に飛び込んだ!
「誰? 」
後ろで自転車が風に煽られて倒れる!
直哉君!?
由紀子ちゃんのところに泳いでいくのは確かに直哉君だった!
ウネリからの返しが由紀子ちゃんを沖合に連れて行こうとする。
もう少し! もう少し!!
由紀子ちゃんをつかむと岸に向かって泳ごうとしている。
あの時と同じだ!!
まるで悠馬君を助けに行った莉子と同じだった。
「そうだ! 」
あの時と同じなら、今度こそ!
わたしは持ってきた浮き袋をひと扇ぎし、瞬時に空気を溜めた!
そして海に飛び込んだ。
直哉君!! 由紀子ちゃん! 絶対に助けるんだから!!
上から見るのとは違い、海は複雑に波立っている。
なかなか前に進まない。
なんで!!!
でも、今度は絶対に浮き袋を手渡すんだ! 手渡すんだ!!
夢中で伸ばしたわたしの腕を誰かが強くひっぱった。
「智夏!! 智夏!! 」
「直哉君! 」
「智夏、戻るぞ! 俺につかまれ」
浮き袋を由紀子ちゃんの体に固定をする。
大きく泣きわめいて暴れる由紀子ちゃん。
「由紀! ほら、かえるさんだ。これ持ってれば大丈夫だぞ。かえるは水なんてへっちゃらなんだ!! 安心しろ!! 」
直哉君は腰に付けていた『かえるのピクルス』を由紀子ちゃんに手渡した。
由紀子ちゃんは徐々に落ち着きを取り戻した。
「よし、良い子だ!! 絶対にお前らを連れて戻るから安心しろ。 俺は水難救助隊だ! 」
直哉君はわたしと由紀子ちゃんを力強く引っ張っていく。
「好きだよ」
「なんだ? 」
その時、うねりが大きな波をつくりわたしたちを飲み込んだ!!
水がぶつかる音とともに自分の体が水中に押し込まれる。
直哉君!! どこ?
いったいどこにいるの? 直哉君!!
どこ?
わたしは大きく手を伸ばし、指先に当たったものを力いっぱいつかんだ!!
「智夏!! 来てくれたんだ! 」
「え? ええ?? 莉子!! 」
わたしの顔の目の前にいるのは莉子だ。
そして浮き袋を持って海の上にいた。
「智夏、これ! 悠馬君に! 浮き袋つけるよ! 」
ここは.. ここは悠馬君を助けようとした海だ。
「ほら、しっかりして!! 智夏!! 私につかまって!! 」
莉子がわたしと悠馬君をひっぱる。
しかし、うねりが絡まるようにじゃまをする。
「絶対に、絶対に戻るんだから!! 」
莉子が叫ぶ!
これは、あの状況と同じだ!
ダメだ!!
きっと大きな波が来る!! 波に飲まれちゃう!!
海が力を貯めこんでいるのを感じる。
その時、山から一陣の風が吹くと、あたり一面、時が止まったように静かになった。
海が静まりウネリさえもおさまっていく。
「あっちだ!! おおい! 大丈夫かあ! 今、助けるぞ! 」
わたしたちに気が付いた漁船が近づいてきた。
最初のコメントを投稿しよう!