わたしがいなくなった後。

1/1
前へ
/23ページ
次へ

わたしがいなくなった後。

そうだ! 由紀子(ゆきこ)ちゃんが助かったなら、直哉(なおや)君だって助かってるかも! わたしは急いで佐野家へ走った。 「こんにちは!! 」 「ああ、これは智夏(ちなつ)ちゃん、ありがとう!! 悠馬を救ってくれて! どうもありがとう」 和樹(かずき)く.. 和樹さんはわたしにすがりつくように膝をつき、思いつく限りの感謝の言葉を伝えてくれた。 「あ、あの! ちょっと上がってもよろしいですか? 」 「あ、ああ ..いいよ 」 わたしは居間から奥の仏間にそのまま足を進めた。 仏壇には写真が1枚飾ってあった。 ..ぁあ ....直哉君.. 「 直哉くん!! 」 やはり、仏壇の写真はセピア色の直哉君の笑顔だった.... わたしが昭和50年の事故の事を聞くと、和樹さんは理由も聞かないで事故の状況を教えてくれた。 風で飛ばされた麦わら帽子を追いかけ、由紀子(ゆきこ)ちゃんが海に転落。 海の様子を見に来た直哉君が、おぼれている由紀子ちゃんを発見し、たまたま落ちていた浮き袋を持って由紀子ちゃんを助けるが、大きな波に飲まれてしまった。 浮き袋を付けた由紀子ちゃんはすぐに海面に浮かんだが、直哉君はそのまま帰らぬ人となった —ということだ。 そこにはわたしの存在はなかった。 和樹さんは、直哉君の写真をみて涙するわたしの手を取り『ありがとう』と言うと、こんなことを話してくれた。 「直哉兄さんはあの時、ある女の子に夢中だった。きっと好きだったのだろう。でもそれが誰だか思い出せないんだ。茜色に染まる海辺に2人で寄り添っていたところを誰かが目撃したらしい.. 夕陽と相まって、うっとりするくらい絵になっていたという。君を見たらそんな昔のことを思い出してしまったよ.... 」 そして、それをわたしに伝える事が、正しい事だと思ったらしい。 ・・・・・・ ・・ 「智夏!! こんなところにいたの? 心配したんだから! 」 「 ..莉子(りこ).... 」 胸が張り裂けそうなくらい悲しかった。 涙が止まらなかった。 わたしは莉子にしがみついた。 誰かに抱きしめてほしかった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加