他人のために泥を被るのは馬鹿らしい!

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他人のために泥を被るのは馬鹿らしい!

叔母さんの家に帰るとお風呂の準備ができていた。 「智夏(ちなつ)、私がお風呂入っている間にフルーツロールケーキ食べちゃいやだよ」 「わかったから早く入ってこい! 」 「ふふふ。2人は本当に仲良しなのね」 叔母はいつものやさしい笑顔で言ってくれた。 その言葉を素直にうれしく思えた。 夜のニュース番組では日本に接近している台風情報と海難事故の報道をしていた。 『 ——捜索中の2名は未だ行方がわからず下田海上保安部と地元の漁船で捜索が続いております』 「どうしたの? 」 「うん。どうやら男の子が波にさらわれて、その子を助けに行った大学生も流されてしまったらしいの.. 心配だわ」 「そうなんですか。今日、うねりが入ってましたからね。でもこの男の子、アカの他人なんでしょ? 大学生のひとも他の人に任せればよかったのに。男の子も助からないで自分も助からない。結果こんな大捜索になってるんだもん。全然意味なかったですよね! 」 「何言ってるのっ!! そうじゃないわ!! 智夏ちゃん! 意味なくなんかないのよ!! 」 「 ..ごめんなさいっ」 わたしは初めてだった。 こんなに激しい感情を叔母さんからぶつけられるなんて。 理由はわからなかったけど、いつもは優しい叔母さんだっただけに驚いて涙が出てしまった。 「ああ.. 智夏ちゃん。ごめんね。ごめんなさい。つい感情的になって」 しきりに謝る叔母さんはいつもの優しい声になっていた。 わたしの背中をやさしくなでるその手からは、言い知れぬ悲しみも伝わって来た。 わたしは湯船の中で思いを巡らせた。 過去の自分から学んでいたはずだった。 他人は所詮、他人なんだ。自分のことが一番大切。他人のために泥をかぶるなんて損するだけだ。 ・・・・・・ ・・ —あれはわたしが中学2年生3学期の時だ。 その女の子は.. そうだ、田沼さんだ。 わたしから見ても寝ぐせくらいは直して来たらいいのに.. と思うくらい無頓着で内気な女の子だった。 クラスの男子と一部の女子がいたずらと言うにはしつこすぎる嫌がらせをしているのを知っていた。 それはSNSだったり、上履きや靴を隠したり捨てたり、酷いときには体育の後に服が女子トイレの便器に放り込まれていたこともあった。 わたしはいじめに加担もしなければ、それに関わろうとも思わなかった。 でも、その日、わたしは部活の後、教室に忘れ物を取りに戻った。 すると黒板に大きく田沼さんを辱める絵や罵倒する言葉が大きく描かれていた。 まるで自分が何かに試されている思いになった。 と同時に自分への恥ずかしさが込み上げてきて、黒板の文字をすべて消してしまった。 だが、悪かったのは消している姿をいじめグループに目撃されてしまった事だ。 「おい、吉野、おまえ何してくれてるんだよ」 「そうよ、せっかく面白い似顔絵かけたのに」 「 ..いくらなんでも良くないよ。ちょっと酷くない」 「はぁ、聞こえねぇよ。何言っちゃってんの?こいつ」 「でもクラスメイトでしょ? あんなの書いて心痛まないの? 」 「何、偉そうなこと言ってるんだよ。今まで黙ってたくせに」 「そうよ、あんただって田沼ゴミ子を避けてたじゃない。今更何言ってんのよ」 「でも.... 」 3人はわたしに詰め寄り、ひとりがわたしの髪の毛を鷲掴みにした。 ガゴンッ!ガゴン!ドガン! 「!!! 何の音? 」 「隣の部屋だろ? 誰かいるんじゃね? 」 「あー、わかった! わかった! 白けたな! いいよ。おまえの言う通りやりすぎだな。もう帰ろうぜ。そうだカラオケ行こう 」 グループは帰ったが、わたしは足が震えていた。 家に帰るまでずっと不安だった.... 翌日からだ。 わたしの上履きが無くなり始めたのは。 そしてわたしは見てしまったんだ。 わたしの上履きを捨てる田沼さんの姿を.. 結局、わたしへの嫌がらせはすぐに終わり、田沼さんは学校を転校することになった。 わたしはいじめグループと関わらないようにしながら中学3年生になる。 クラス替えが行われ、新しいクラスメイト。 いじめグループはいなかった。 突然、後ろの席から指で背中をトントンされた。 「吉野さん、シャープペン貸してくれない? 私カバンの中身全部忘れちゃったの.. 」 「全部って空のカバンで来たの? 」 「ど~しよ~。あ、そうだ紙も1枚めぐんで」 それが沢田莉子(さわだりこ)との出会いだった。 莉子の物おじしない性格はわたしにいじめグループを近づけさせなかった。 なぜなら.. その後1度だけ上履きを隠されたときだ。 莉子はそれを大きな声で言ってしまう子だった。 「先生! 智夏の上履きが無くなってます。どうしたらいいんですかねぇ!!? 」 天然なのか何なのか? すぐに表ざたにしてしまう莉子がいては, いじめグループはやりづらかったのだろう。 でも、結局こんな面倒なことになったのは、わたしが余計なことをしたせいだ。 あの時、黒板の落書きなんか見て見ぬふりしてればよかったんだ。 わたしは間違って.. るのかな? ..莉子 ..莉子 ・・ ・・・・・・ 「智夏!! ちょっと智夏! 大丈夫? 」 「莉子? 」 「全然お風呂から出てこないから心配しちゃったじゃない。大丈夫? 」 「はは。ごめん、寝ちゃった」 「もう、早く出てきてよ、フルーツロールケーキ食べちゃうよ! 」 今日はビーチに行って、悠真君の家に行って、いろいろ疲れちゃった。 とりあえず特性みかんジュースを飲むとしよう。 ゴクッ! ゴクッ! 「莉子、おまたせ! 」 「もう.. 何やってるのよ.... 」   「ごめん、ごめん 」
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