雨音と悲しみ

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 私は、悲しみなのだ。色んな人の悲しみが、私の中に入ってくる。雨音だと思っていたのは、その悲しみが私の中に降ってくる、その音なのだ。私はその悲しみを自分の中に受け入れ、その人の悲しみを和らげる。そうしないと人はいつまでも悲しみ続けてしまうからだ。それはとても大切な役目なのに、そんな悲しみばかりの自分が嫌で、自分から逃げて、自分のことを忘れようとした。そして本当に忘れてしまっていたのだ。  そしてもう一つ、思い出した。このままだと私がどうなるのかということだ。私は、いつまでも悲しみを受け入れ続けられるわけではない。限度がある。その限度が来るまでどれくらいの悲しみに、どれくらいの時間耐えられるのか、それは分からないのだけれど、いつか私は全てを受け入れきれなくなって、破裂してしまう。破裂したら、私の中の悲しみが、世界中に広がってしまうだろう。そうすると、どうなるのか。  私は、もうずっと人類を守り続けている。いや、人類だけではない。地球ができて、地球に生き物が生まれ始めた時からずっと、私はこの地球の生き物を見守り続けている。私の中は、その時から今までの全ての悲しみで、いっぱいになっている。最初の頃は悲しみの量はとても少なかったのに、人類が生まれ始めてから、その悲しみの量は増え始め、最近は少し前と比較にならないほど多い。私が耐えられるのも、もう時間の問題だろう。  ざぁざぁ、とまた雨音が聞こえた。私は、生き物の悲しむ顔なんて見たくないのだけれど。そう思いながら、私はその悲しみを、受け入れるのだ。 
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