ひいおばあちゃん

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雨の日になると、思い出す。 私は外で遊ぶのが大好きな活発な子どもだった。 だから、雨の日が大嫌いで、新しい傘を買ってもらっても、デパートに連れて行ってもらっても、なかなか機嫌が直らなかったらしい。 そう話しながら目を細める祖母も、もう90歳を越えた。 まだ小学校に通い始めたばかりの私の娘のことを本当に可愛がってくれる。 娘は障害があって、言葉を発さない。 それなのに、祖母とだけはよく会話をしている。 目で…身ぶり手ぶりで…表情で… 祖母はいつも言う。 「この子は本当におしゃべりな子だよ。お話が上手だねえ。」 私や母は、ついに祖母も年相応になったか…と覚悟を決める。 しかし、祖母は相変わらずしっかりとしているのだった。 ある日、すでに学校から帰ってきているはずの娘の姿が見えない。 お隣の幼馴染の家に遊びに行ったのかと思っていたが、違うらしい。 だんだん日が暮れてきて心配になってきた。 近所を探しに行こうと玄関に向かう私に、祖母は言う。 「大丈夫だよ、心配ないよ。」 何を根拠に! と少し腹立たしく思う私に、祖母はこう続ける。 「大丈夫だからね、あの子のことは心配ないよ。」 9時過ぎ…警察に届けるタイミングを見計らい過ぎた…と悔やみながら近所中を駆けずり回って帰ってきた私と母を、娘は玄関前で待っていた。 娘に駆け寄り抱きしめながら泣く私たちに、 「ごめんなさい」 娘は、そう、はっきり言ったのだ。 目を…いや、耳を疑った。 「ひいおばあちゃんを送ってきたの。独りぼっちで行かせたくなかったから。」 顔を見合わせた私と母、居間に飛び込んでみると       。 いつも座っているソファにゆったりと背をもたれかけて、 笑顔で…本当に本当に穏やかな笑顔で、祖母は眠りについていた。 「ひいおばあちゃんはね、ずっとずっと私に教えてくれていたの。 毎日、楽しいよ、幸せだよ、って。 生きること、生きていくことって幸せなことだよ、って。 私ね、今までどうしようかな、ってずっと思ってた。 でもね、もう大丈夫だよ。 ひいおばあちゃんから、これから100年生きていくための幸せを教えてもらったから。」
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