こーひーいんにょう

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勢いよく喫茶店扉を開ける私。 「コーヒーを返しにきた、お前の顔面に俺のしょんべんを引っ掛けてやる」 喫茶店店員は私のことを見るなり不可解な笑みを浮かべた。私は素直にその笑顔が気持ち悪かった。 「排泄物及び尿でのご返却は原則お断りしております」 店員は姿勢良く冷静にそう呟く。 「じゃあどこから出せってんだ、意味不明なことばっか抜かしやがって、お前のこと訴えてやるぞ」 「口からお出し下さいませ」 呆れを通り越して俺は放心した。胃袋を通りすぎ膀胱へと溜まった液体を遡るようにして口から出せとほざきやがる。こいつはイカれている。正真正銘の狂いだ。 「あちらに吐瀉物吐き出し用のバケツをご用意しております、返却はそちらへお願い致します」 室内の隅っこに置かれている銀色のバケツ。この店員は本気で俺にそう説明をしている。本気で口から飲み込んだコーヒーを出せと言っている。 俺がおかしい側なのか。それともこの店員がおかしいのか。自分でもよく分からなくなってきた。 「ご返却に際し、スタッフによるお客様喉部分への刺激をサービスの一環として行わらせて頂いております」 喉を刺激し吐瀉を促すということか。これはいよいよ狂ってきてやがる。俺は今本物の狂いを目撃している。 「どうなさいますか?」 「知らねえよ、返さねえよ、俺はもう帰らせてもらう」 俺は店をあとにしようと店出口へと向かった。不意に俺の背後から店員の声。 「返却が遅れますと延滞金が科される場合がございます。席料一千万円からのトイチ。利息十日で百万円となります」 出口へと向かった私の足がピタッと止まった。 「おいおい、そりゃ違法金利じゃねえか、さてはあんた闇金か?」 「いえいえ滅相もございません、私は個人経営の喫茶店を営んでおります、長年この街の人々に愛され続けて参りました」 上等だ。覚悟を決めてやるよ。コーヒー1杯ここで返してやるよ。 私は覚悟を決めた。 「分かった。俺の喉に指を突っ込んでくれ。吐き出せば全てはチャラなんだろう? いいぜ、やってやるよ、借りたモノはしっかりと返す性分なんでね」 私は四つん這いの姿勢になり銀色バケツに自身顔を近づけた。 「いいぜ、やってくれ」 大きく開口する私の口元。腕まくりした店員が私の喉奥へと指を突っ込む。 「多少のえずきはご容赦ください」 喉ちんこの更に奥の方。粘膜で滑りがよくなった私の喉奥に店員の指が侵入する。途端にえずく私。 目からは涙が溢れていた。他人にこうして喉奥を触られるなど人生で初めての経験。他人の指とはこうも気持ちの悪いモノなのであろうか。触手で蹂躙されるかのような妙な気分。最悪な気分だった。 えずきの勢いは止まらない。更にえずく私。ランチで食べた色々なモノ達が一斉に銀色バケツ内にブチ巻かれる。それは全てが茶色い色形をしており、子羊、アスパラ、シュリンプ、トリュフ、全てが一緒くたとなり自身胃袋から流れ出てきた。 「おかしいですね、出てきませんね」 それもそのはず。コーヒーは今現在膀胱内に留まっている。私は馬鹿な選択をした。無意味な選択をした。 その瞬間。異常な尿意が自身を襲った。 今にも出そうな勢い。私は店員にトイレを貸してくれと頼んだ。 「申し訳ございません、尿としての排泄物排出行為は当店のマナーに反する為、店舗トイレの使用を禁止させて頂いております」 この野郎はどこまで私をコケにすれば気が済むのだ。もう我慢の限界だった。我慢というものをしてはならない気がした。 「トイレを貸せよ! 今すぐトイレを貸せよ! でなきゃここでするぞ!」 「店舗内清掃費は実費となりますが、それでもよろしいでしょうか?」 「ああ構わん! もう我慢できない! ああ!」 私はズボンチャックを下ろし、その場で放尿を開始した。途端に至福の表情を浮かべる私。 刹那の瞬間——いきなり店員が私の頭を掴み、尿溜まりの床に私の顔面を押し付けた。 「循環する社会環境を。それをモットーに当社の経営理念は成り立っております」 何がなんやらわけが分からない私。 「お飲み下さい」 「は?」 「席料一千万。実費清掃費。諸々を全てチャラにしてやるんだ。つべこべ言わずにさっさと飲め」 凄みを増す店員の顔つき。今までとはまるで別人だった。 「Sサイズコーヒー1杯のありがたみを己の身を持って知れ。されどコーヒー、日々のコーヒー、当たり前のように飲む毎日のコーヒーにお前は感謝したことはあるか? 血となり肉となり骨となる1杯のコーヒー。今ここでその1杯の重みを思い知れ」 私は言われるがままに自身尿をすすった。 あまり美味しくはなかった。                                   了
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