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後日、俺の目の前には手のひらサイズの小さな白い箱が数個あった。「夢合わせ屋」から届いた夢を詰めるための箱である。
箱の蓋を開けてみると、それは小さなオルゴールだった。普通の物と違うところがあるとすれば、本来金属突起のある円柱(『ドラム』と言う部品)に、突起がないことだろうか。
これではゼンマイを回しても、振動弁を弾くものが無いので音は鳴らない。
しかし箱を枕元に置いて寝ると見た夢がドラムに突起を作り、「夢を見る曲」を奏でる特別なオルゴールができるのだと言う。
そしてレンタルした夢を見たい人は、この完成したオルゴールを鳴らしながら眠りにつく。すると曲の元になった夢を寝ているときに見ることができるのだとか。
一種の睡眠導入のためのようなものだろうか?
正直、説明書を読んだ俺は「何をしているんだろう?」と、少し我に返った。だが、物は試しである。
俺は箱の一つを枕元に置き、眠りについた。
「わぁああ、ぁあ! あああ!」
案の定、悪夢を見た俺は悲鳴を上げながら目を覚ます。そして日課であるSNSの「悪夢日記」の更新をした。
『6月10日、雨。
死体を発見した俺は霊柩車に乗せられ、墓に埋葬されるところまで見届けた。そして家に帰ったら、父親に《お前も死ねばいいのに》と言われ……』
その先は恐怖が残っているせいか、なかなか書けなかった。
俺はその言葉に逆上して、父を刺し殺したのだ。体験したことなどないはずなのに、刺した感触が手に残っている気がする。
なんとか投稿した後、枕元の箱を見る。すると白かったはずの箱は、夜明け前のような瑠璃色で彩られていた。中のドラムにも突起が現れており、試しにゼンマイを回すと曲が流れ始める。
それはクラシックの「アラベスク」のような、幻想的な曲で……あの悪夢がこんな綺麗なメロディーになるとは。
これで夢を人へレンタルする準備──梱包は完了である。
俺は「夢合わせ屋」のサイトに、人にレンタルするために必要な情報を記入する。夢の内容、そしてレンタル料は……幾らにしよう?
こんな残虐な内容なのだ。欲しがる人は、あまりいないはず。面倒になった俺は適当に、ワンコインの500円でサイトに上げた。
「さて、売れるまでネットサーフィンをしよう」と思った直後、通知音が届く。それは「借り手がついた」という知らせだった。
「嘘だろ!?」
あんな夢を欲しがる人がいるとは! しかも「その次でもいいから、レンタルしてほしい!」という予約まで入っている。これは結構いい商売になるかもしれない。
俺はカーテンを閉め切った薄暗い自室で一人、ニヤリと笑った。
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