第15話 大切なもの

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「陸がくれたのよ」 「陸くんが……」 「そう。あの子からもらった、初めての母の日のプレゼント」  もうすでに素敵な話だと思ったけど、まだ続きがあるに違いない。  私は今度ばかりは積極的に口数を減らして静子さんに続きを促す。 「誰にそそのかされたのかしらね、ここに来て最初の母の日だったわ」  確か陸くんがここに来たのは小学四年生のときだったはず。  私自身、初めて母の日の贈り物をしたのはいつだったかな。似たような年頃かな。 「そそのかされたって、陸くんが自分で用意してくれたんじゃないですか?」 「どうかしらね。それまで一度もくれなかったのに、急に思い立つものなのかしら」  私も曖昧だけど、学校で話題になったこともあったような気がする。  似顔絵を描くとか、作文を読むとか、そんなことをしたような覚えがある。 「初めてのプレゼントだったんですよね。そのときの陸くんはどんな感じでしたか?」  きっと初めてのものだったというのはポイントになっているはずだ。  翌年以降、陸くんがどんな贈り物をしているのかはわからないけど、静子さんにとってこのエプロンは特別なものになっているのだから。 「ふふっ、それがねぇ。これ、陸には言わないでね」  そう言って静子さんは、口に手を当てて笑った。  どうやら幼さゆえのエピソードがありそうだ。  本人が聞いたらきっと恥ずかしくなるような。
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