アオザイの国

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「でもさ、それくらい金がかかるってことは日本に来る前に説明がなかったの?」  焼き鳥などと共に運ばれてきた新しいジョッキをつかみ、トゥンは語気を強めた。 「ボクの場合は日本に行けばアルバイトだけで月に二十万以上は稼げると聞いてたね。週に二十八時間しかダメとは説明はなかったよ」「ふーん、そりゃまるで詐欺だな」  トゥンは 悔しさを滲ませた顔で続けた。 「そう。ベトナムのブローカーは日本語学校とグルが多いよ。悪い人間ばかりね」  たしかにアルバイトだけでも月に二十万は稼げる。しかし、時間の制約があり、学校へ通いながらとなると無理な話である。 「それにしてもベトナム人留学生は増えたな。その代わり中国人は激減して、最近はネパール人のバイトもいるぞ」 「中国は都会に出れば仕事はあるね。給料も上がってきたから、わざわざ日本に留学する必要はなくなってきたね」  最近は外国人留学生が所在不明になるケースが多いという。ある私立大学では定員制限のない研修生として大量の留学生を受け入れ、多額の授業料と国からの補助金で不正に大儲けをして摘発された。だがそれは、氷山の一角にすぎない。
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