アオザイの国

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「そんなんじゃないね。ゴウホウの店だよ。それで、もしよかったら直哉もそこで一緒に働けたらいいなって思ってね」  酔いのせいもあり、トゥンの言葉は直哉の心を揺さぶった。何の目標も面白みもない、今の生活にうんざりしているのは事実だ。 「ふーん。良い話なら乗ってもいいけどな。でも寮なんだろ? 俺が行っても大丈夫か?」 「平気だよ。寮といっても店が借りたアパートね。タイ人と二人で住んでいるけど、その人は遅くまで帰ってこないよ」        二人は徒歩と地下鉄でトゥンのアパートへ移動した。二人が並ぶと身長が百八十センチほどある直哉は、小柄なトゥンより頭一つ分大きかった。  トゥンが住むアパートは駅から歩いて十分ほどの場所にあった。通りからは引っ込んでいてコンビニの明かりは見えるが、時刻は午後十時を過ぎており、人通りはまばらだった。  アパートは二階建てで、一階と二階に三部屋ずつあり、まだ新しい作りだった。トゥンの部屋は二階の奥側だった。 「ここと隣の部屋が店の寮ね」
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