アオザイの国

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「でも洋服ダンスがないな……。あ、クローゼットがあるのか。へー、いいな。俺のところは昔ながらの押し入れだもんな」 「うん。ちょっと中、見てみる?」  トゥンはおもむろに立ち上がると、ベッドの横にあるクローゼットを開けた。ハンガーパイプにはぎっしりと服が掛けられており、中央付近にある服を見て、直哉は目を瞬いた。 「あれ? それ、もしかしてセーラー服か? そのとなりのはメイド服? 誰のだよ」  トゥンは、ゆっくりと振り返ると微笑した。 「僕のだよ。仕事の時に着る服ね」 「なんだって?」  口が半開きのままクロ―ゼットの中をよく見ると、掛けられている服の半分近くは女物のようだった。直哉は息を呑んだ。 「おまえの仕事って、いったいなんなんだ?」  トゥンは上目遣いになり、少しはにかんだように言った。 「売り専ね……。ボクは女装専門でやってる」 「ウリセン? それって男が男に体を売るやつか? つうかおまえ、ゲイだったの?」  トゥンは、クローゼットを閉めて再びベッドに座った。足をそろえて手を膝の上に置き、急に仕草が女っぽくなったように思えた。
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