アオザイの国

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 直哉は「なんだよー」と渋面を作ってうなだれた。舌打ちして画面を見直すと、今朝から三回目の同じ番号からの着信だった。登録されていない相手なので、間違い電話だと思って無視しているが、さすがに回数が多い。直哉は訝しげに電話に出た。 「はい」 「あ、直哉? やっと出たね、ボクだよ」  少し鼻にかかった声に相手の顔がすぐに浮んだが、驚きで一呼吸遅れて名前が出た。 「え? トゥンか?」 「そうだよー。久しぶりね」  去年の秋以来に聞く声だった。しかし、直哉は素直に喜べない。 「どこからかけているんだよ? ベトナムからか?」 「いやいやー、日本だよ。まだこっちにいるよ。連絡しないで、ごめんだったね」  トゥンは、直哉が勤めるコンビニでアルバイトをしていたベトナムからの日本語留学生だった。歳は直哉と同じ二十一で、去年の九月の末、アルバイト代を貰った次の日から無断欠勤をして連絡もつかなくなっていた。店主からの依頼で日本語学校に所在を確認したが、学校へも来なくなり、寮からも姿を消したと聞いていた。 「みんな心配していたんだぞ。今、どうしてるんだよ?」
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