アオザイの国

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「なんか金使わせちゃって、悪いな。つうかさあ、おまえ何で急にいなくなったの?」  トゥンは急に真顔になった。 「お父さんの仕事、台風でめちゃくちゃになったから……」  トゥンは伏し目がちに言った。去年の九月中旬、超大型台風がベトナムに上陸して甚大な被害を出した。その悲惨な状況は、日本のテレビニュースでも繰り返し放送された。当時トゥンはしきりに店のWi―Fiを使い、ネット回線でベトナムの身内と連絡を取っていた。トゥンが失踪したのはその直後だった。 「やっぱ、ベトナムに帰っていたんだな。でもさ、黙っていなくなることはないだろ」  トゥンは視線を上げた。 「ううん。帰ってないよ。お父さんからも、帰ってこなくていいから、出来るだけお金を送ってほしいと言われたからね」  そこへビールジョッキと刺身の盛り合わせが運ばれてきた。甘エビを見て直哉が言った。 「そういや、おまえの実家ってエビの養殖をやってたんだよな」 「そう。叔父さんと共同でね。それが台風で全部ダメになったね。お父さん、養殖の場所を大きくするために銀行でお金いっぱい借りていたね。それと、ボクの留学費用も」
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