笹迷宮

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 友人に連れられて座敷に入って来た男は、小柄で木訥そうな感じだった。とても埋蔵金などという嘘の大風呂敷を広げるような男には見えない。 「高尾、お前の話を彼に聞かせてやってくれ」  高尾覚太郎と名乗る男は友人に促されて、 「ようがす。ではひとつ私の話を聞いて貰いましょう」 と言って居ずまいを正し淡々と語り始めた。 二  時は明治の終わり頃、当時足尾の銅山で鉱夫をしていた高尾は急用が出来、一週間の休みを取って実家のある静岡へ向かった。  今ほど交通の便が良くなかった時代、足尾から汽車を乗り継ぎ又乗り継ぎやっと熱海迄着いたがその日はそこまでしか行けず安宿に泊まることになった。  相部屋に案内され着くとそこには既に同室の男が居て一杯飲っていた。  挨拶を交わし黙っているのも気まずかったのでお互いの仕事の事などを話している内に共に山に関係する仕事をしていることが判る。  上山健彦と名乗った男は自身を山岳研究家と紹介した。
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